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羽化

 テオが蝶になってしまう。戻れなくなる。

 ルイスの体を恐怖がつらぬいた。


「お願いします!

 テオを元に戻してください!

 彼は悪くない、悪いのは愚かな僕です!

 代償が必要なら、何だって差し出します。

 魔力だって、この命だって。


 彼が……愛する家族の元に戻れないなんて、あんまりだ」


 ルイスは叫び、訴えた。

 その間にも蛹の表面にヒビが走っていく。

 必死だった。

 やがて、蛹の中が光りだす。

 

「ああ……」

 絶望で目の前が真っ暗になる。

 ルイスは顔を覆った。



「ルイス」

 見上げるとテオがいた。記憶に焼きついたあの日の服装と同じ。


「ルイス、僕のためにありがとう。

 おかげで元に戻れた」

 

 優しい笑顔はまぶしすぎた。

 ルイスは首を振る。


「違う、君にお礼を言われる筋合いはない。

 全部僕のせいだ。

 君は僕を恨むのが筋だ、許さなくていいんだ」


 テオは膝を折り、ルイスの肩に手をかける。

 ほんのりあたたかくて、それが嬉しくて、しかし申し訳ない気持ちがあって。

 訳が分からないまま、ルイスの頬を涙が伝う。

 テオは静かに話しだした。

 

「確かに最初は怖かったし、恨んだよ。

 だけど虫の姿では世界をぼんやりとしか感じられなくて、記憶も薄らいで、心まで虫になりそうだった。


 でも、だんだん君が変わっていくのがわかった。必死に旅する君の姿を日々感じて、人としての意識を保つことができたんだ。


 さっき、精霊に会ったよ。

 元に戻りたいか、蝶として生きるか聞かれたんだ。

 僕は『人間に戻りたいです』って言ったんだ。

 君ともう一度話したかった」

「テオ……」

「過去の君を許すことは出来ない」

「……」

「でも僕ら、これからは友達になれると思う」


 ルイスはもう言葉が出なかった。

 テオが差し出した手をルイスはしっかり握り、立ち上がった。途端に契約も、彼の魔力も全て体から消え失せたが、どうでもよかった。


「ありがとう……テオ」


 

 気づくと2人は元の雪山にいた。

 テオが吹きつける冷たい風によろける。

 ルイスは彼を支えた。頬の涙を袖で拭いた。


「帰ろう」

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