懺悔
「ごめん、ごめんなさい。
僕は取り返しのつかないことをした。
君が受けるはずの愛情を、恩恵を、時間を僕が奪った。
必ず元の姿に戻すよ。そして君が……」
許してくれたら嬉しい、と続けようとしてルイスは愕然とした。
それは、あまりにも自分に都合がよくないか。
テオはまだ虫のままなのに、許されようとするのか。
なんてあさましい。
「ごめんなさい……」
こんな自分と関わったばかりに。
テオだけではない。彼の両親、物で釣ってきた友達、街の皆にも迷惑をかけてきた。
お父様にも、お母様にも。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
謝って現状が変わるわけではない。だが今できるのは懺悔することくらいだった。
後悔で胸が苦しい。だが「苦しい」と思うことすら傲慢だ。
愚かな人間だ、悪だ、どうしようもない奴だ。
この罪悪感からは永遠に逃れられないだろうと確信した。
冷たい空気が喉を刺す。
来る日も来る日も太陽が登り、ルイスは歩を進める。いよいよ聖地のある雪山を登り始めた。
虫籠の中に葉を入れる必要はもうなかった。
斜めに立てかけた枝に、今は蛹がくっついている。
羽化する前に聖地に着かないといけない。
しかし、足は重い。これまでの疲労と、冷たい風が気力を奪う。
足枷でもはめられているようだ。
止まれば、一歩も進めなくなりそうで、ただ右、左と足を出した。
雪山の頂上、窪んだ場所に聖地はあった。魔力が溜まっているのが肌でわかる。
一歩入ると景色が変わった。
びゅうびゅうと吹いていた風の音が消えた。
緑の草地が広がり、花が咲き乱れ、ほのかに甘い香りが漂う。
嘘のように暖かった。頭上に春の空が広がる。
精霊たちの姿はない。
ルイスは首にかけていた虫籠を外し、頭上へ捧げ持った。言うことは決めていたのに、言葉にするのには時間がかかった。
「私は罪人です」
口に出すと同時に、涙がこぼれた。
「人の子を、禁じられた魔法で虫に変える罪を犯しました。
償いのため、契約に従い旅をしてまいりました。
どうかこの者を元の姿に戻していただけないでしょうか。
どうか、どうか――」
返事はない。
ただ「ぴしり」と音がした気がして、ルイスは虫籠の中、テオを見た。
茶色い蛹の殻に、ひびが入り始めていた。