私は756歳
ときは3000年、
私は756歳、
脳以外はすべてレプリカント。
もっと詳しく言うと、
脳もほとんどレプリカント、
私の記憶だけが756年前から続いている。
世の中はレプリカントで溢れている、
レプリカントでない人はごく僅か、
永遠の寿命を求め、みんなレプリカントになる。
「地球行ったことある?」
「ない」
「VRで十分」
「でもさあ、実際の目で、自然の中歩くってよさそう」
「でも行くには、1万P以上かかるよ」
「そうよねえ、百年後かなあ」
ノボルとヒミコが今住んでいるのは、
木星の第二衛星エウロパ、今最も人口の多い、地球に似た衛星だ。
地球に最も似ている環境とは言っても、
空気は薄く、微生物以外の古来の生物はいない。
ただ、人間はVRによって、そんな本当の姿は見えないし感じない。
「ここが地球かあ!」
「エウロパで見ていたVRと同じじゃん」
「いや~この空気のうまさ!違うで~」
「あ!老人!」
「そうかあ、ここには老人がいるんだ」
エウロパにはいない。
なぜって、レプリカントには老人はいなから。
しかし、地球にはレプリカントは住めない。
やっと3097年になってできた今回のような旅行はできるが。
法律によって、レプリカントは地球外退去、あるいは処刑される。
でも地球に憧れるレプリカントは多い。
そのため年間多くのレプリカントが処刑されている。
やはりVRがどんなに発達しても、本物の「自然」の中で生きたい人は多いのだ。
「ここに住みたいなあ」
「あほ!大きな声で言うな!どこに秘密警察がいるかわからんぞ!」
「え!」
「噂だけど、レプリカント探しの秘密警察はいっぱいいるらしいぞ!」
「もし捕まったら?」
「まあ、即処刑だろうな」
と言っている目の前で、ひとりの男が捕まった。
「違う!違う!私は旅行者だ!」
「ビザを見せろ!」
「失くした」
「うそを言うな!」
「本当だ!」
レプリカントはすべて身体の中にデータが入っている。
それを失くしたということは、ウイルス感染しかありえない。
また、町中にデータカメラ網が張り巡らされている。
レプリカントの発見など秘密警察などいなくても簡単なのだ。
「やはり無理?」
「逃亡レプリカントを助ける地下組織があるって聞いたことがある」
「え?」
「ヒミコのためだ、探してみるか」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないさ。データカメラ網、AI秘密警察網をくぐるんだからな」
「おもしろそう」
「あほ!そんな軽口叩けるのも今のうちだぞ!何せ、もしかしたら処刑、
それは永遠の暗黒への道なんだからな」
「空中組織」
「手がかり全く無しね」
「ネットだけ調べてたらだめさ、それではすぐ警察にばれるからな」
「じゃあどうするの?」
「まあ1000年以上前の人間なら、ここで、『足を使う』と言うんだろうが・・」
ノボルとヒミコは河川敷に寝転んでいた。
「あ!」
「どうしたの?」
「そうだ!地下、地下と考えるからいけないんだ」
「だから?」
「地上、いや、空中にあると考えたら」
「でも空中は地上よりもっと警戒が厳しいのでは?」
「それをくぐるのさ」
数日後彼らは、模型販売店にいた。
「AIバード、これに乗って飛ぶとおもしろいよ」
「え?そんなことできるの?」
「はははは!お前さんたちレプリカントだろ?
だったら、小さくなるのも抵抗ないだろ?」
「もしかしたら、それなら、空中データカメラにひっかからないとか」
「よ~く知ってるねえ、ちょっと高いけどね」
「お~い!どうだい?小さくなった感想は?」
模型店店員のおおきな顔が近づいて来た。
「ガリバーだ」
「お!よくそんな昔の童話知ってるねえ」
「このAIバード、ちゃんと言うこと聞きます?」
「聞くさ、なにせAIだからね」
「じゃ、行ってきま~す。ありがとう!」
ノボルとヒミコはそのAIバードに乗って空に飛び立った。
「行き場所知ってるの?」
「知らん」
「え?それでどうやって地下、いや空中組織に接触できるの?」
「まあ、なんとかなるさ、伊達に800年以上生きてないよ。
100年しか生きられない生身の人間、その人間が作ったAI警察、
そんなのに負けられますか!」
「人間」へ
「ようこそレプリカント支援組織『救援』へ」
「そ~らなんとかなっただろ?」
「偶然じゃないの?」
そこは空中にある施設だった。
レーダー等には写らない特殊構造になっていた。
まあAIやデータだけに頼っていると、意外な抜け穴もあるものなのだ。
ノボルとヒミコは、そこでまず元の大きさに戻してもらった。
そして今後のことを話し合った。
「これからどうしたいのですか?」
「地球で暮らして行きたいのですが」
「ではまずレプリカントをやめなければなりません」
「はい」
「それがどういう意味かわかっていますか?」
「はい・・」
「永遠の命ではなくなるということですが」
「はい、覚悟しています」
「永遠の命」か「生身の人間」か?
今は選択できないが、将来は「究極の選択」となるのではないだろうか。