47.もう一つの結末
昼を過ぎてもエリザベスは戻って来ない。
一体、どこに行ってしまったのだろうかとシャーロットがため息をついていたところ、誰かが玄関のドアをコンコンと叩いてる事に気づいた。
こんな時に誰だろうと思いながら開けてみると、それはなんと彼女が探していたエリザベス本人だった。
「ちょっと、ねえ様! どこに行ってたの! オーギュストさんはとっくに……」
シャーロットは文句を言おうとしたところで、エリザベスの隣には船に乗るはずだったオーギュストが立っていることに気づいた。
しかしなぜか、彼は裸足でシャツとズボンだけしか着ておらず、しかも湿っぽい感じがしている。
「もうやだ! なんでオーギュストさんも一緒にいるのよ! ちょっとどう言う事?!」
シャーロットは嬉しさも驚きも混じったような叫びをあげると、二人はまあそう言う事だと彼女に笑いながら言った。
玄関先でシャーロットがきゃあきゃあ言っていたため、両親も何事だと思ってやってくると、オーギュストが戻って来たことに彼らもとても驚いた。
「まさか二人で戻ってくるなんて! 一体どうしたのよ。オーギュストはなんか濡れているみたいだし……もしかして船から落ちたの?」
と呆れたように母親が言い
「ほう。私はいつでも戻ってきていいと言ったが、まさかこんな早く戻ってくるとは思わなかった!」
と父親はハハハと明るく笑った。
◆◆◆
翌日には次の停泊場から戻ってきたラファエルとシャルルにオーギュストは合流できたため、さらに日を跨いで、改めて彼とエリザベスはラファエルを連れてリビングにいる両親の所へ向かった。
「エリザベスさんと結婚させてください」
オーギュストの申し出に、両親は顔を見合わせた。
「いやいや、まさか本当にそうなってしまうとは。いいぞ。私は賛成だ! よかったな、エリザベス。ハハハ」
父親は両手をあげて大賛成と言ったところだったが、一方の母親はと言うと……
「結婚と言ったって、あなたはまだ学生の身でしょう。結婚するには若すぎるわ!」
と、案の定反対に回った。
だが、こうなることは予想できたので、どうか落ち着いて話を聞いてくださいとラファエルが母親を制した。
「お二人には大変申し訳ないのですが、実は……」
ラファエルはオーギュストは本当は学生ではなく、メリディエス家の当主で今後は商会のトップに立つ事、そしてフランス貴族の血を半分継いでいる事を話した。
さらに資産についてはこのくらい……と口にしたところ、父親は口をあんぐりと開け、母親に至っては信じられないと言ってその場に卒倒してしまった。
長椅子に寝かした妻を尻目に
「だが、まあ、それはいいとして。そんな立派な家に嫁がせるにしては、うちは恥ずかしい事に持参金が少ないのがなぁ」
額をポリポリと掻きながら、父親はせめてこの土地や家を継ぐ権利をエリザベスが持っていればと言った。
「ああ、その点についてはご心配なく。持参金は別になくても結構ですから。その分、馬車馬のように彼に稼いでもらえばいいのです」
オーギュストの方をチラリと見ながらラファエルはそう言った。
「おっと……そうそう。大事な事を忘れていました」
そして彼は一枚の紙を父親の前に差し出した。
「誠に勝手ながら調べさせていただいたところ、こちらの家の相続権は別の方が持っていたようですね。しかし、ちょうど最近それを放棄したそうですので、こちらの書類をお持ちしました。後はこちらにサインをいただければ、相続権をお嬢様へ移行することが可能ですよ。エリザベス嬢は私どもと本国へ行くことになりますし……ここはシャーロット嬢に譲られてはいかがでしょう」
父親はそんな筈は……とラファエルが出した書類を確認すると、確かにパーシーが放棄したと記載がある。
後は父親がサインさえすれば、シャーロットへ相続する事が可能だ。
「信じられん……あの絶対に譲らなかったパーシーが放棄するなんて。まさか、おたくらが金にものを言わせて、パーシーから脅しとった訳じゃないよな?」
妻がひっくり返る程とてつもない資産の持ち主だ。
そのため、ゴロツキどもを雇って脅迫させたんじゃないかと父親は眉間にシワを寄せた。
「いえいえ、そんな。面白いご冗談を。私どもは彼にそのような行為は一切行っておりませんよ。どうやら元相続人は放棄することを自ら公証人に伝えにいっているようですし」
ラファエルはザラキエルの事を思い出しながらも、ニコニコしながら再度脅迫なんてしていないと言った。
そうか。ならば問題ないな! と父親は親指を立てると、シャーロットへ遺産を残すためのサインを行った。
◆◆◆
晴れて結婚が認められたオーギュストとエリザベスは、両親の承諾を得てから一週間後に今度は二人揃って旅立っていった。
本当にここのところは目まぐるしい毎日だったと、姉のいなくなった部屋のベッドにシャーロットは腰掛けた。
いつも姉がいた部屋は急に物が無くなったことでしんと静まり、シャーロットは急に寂しさを感じた。
とうとうこの家には自分しかいなくなってしまった。
自分の結婚もどうなるんだろうか……と思っていた矢先、部屋のドアを誰かがノックした。
「どうぞ」
彼女がそう返答すると、現れたのはエドガーだった。
「エドガーさんじゃない。どうしたの?」
意外な人物の登場に、彼女はとても驚いた。
「ああ、シャーリー。実は僕もそろそろロンドンへ帰る事になったと伝えにきたんだ」
部屋に入ってきたエドガーはそう言うと肩を竦めた。
彼によると、いい加減に学生気取りでふらふらしてないで家業を手伝え、と父親から言われたらしい。
そして相手はいないんだから、戻ったら直ぐにでも見合いするようにとも。
「そう……なの」
見合いと聞いてシャーロットは黙った。
考えてみればそうだ。
エドガーだって花嫁を探す年齢なのだから、見合いすることは何もおかしくはない。
彼のルックスと実家の事を考えれば、ロンドンに帰ればすぐにでも良い相手が見つかるだろう。
「じゃあ、そういう事だから」
彼は彼女に背を向けて、その部屋を去ろうとした。
「……」
しかし、エドガーは扉の前で立ち止まると、無言のままの彼女の方へ振り返った。
「僕はこのまま行ってもいいの? 止めてくれると思ったのに」
まるでイタズラした子供のように、彼は彼女に向かって微笑みながらそう言った。
「止めるって……私はあなたと正式に付き合っている訳ではないから、止めてと言う権利は一切何もないもの。どうか、お幸せに」
彼女は静かにそう言うと、エドガーはふぅとため息を吐いた。
「そうか。じゃあ、僕もちゃんと素直に言わないといけないな」
エドガーは首を横に振ると、シャーロットに向かってポツリと好きだよと呟いた。
「シャーリー。僕は君の事を愛してる。だから、僕と結婚してくれるかい?」
「へっ?!」
突然の告白と結婚の申し込みに、シャーロットは変な声をだして目が点になった。
あ、愛してる?!
け、結婚?!
自分の聞き間違いだったらどうしよう!?
もしかして私は夢をみてるの?!
彼女は夢なんじゃないかと自分の頬をつねった。痛い。もう一度つねってみても、とても痛かった。
「本当に?!」
そう大きく声を上げると、エドガーはああ本当だともと言って
「だから、これから一緒に君のご両親に挨拶に行きたいんだけど、いいかな?」
と片膝をついて、彼女に手を差し出した。
シャーロットは本当に嬉しそうな笑みを浮かべると彼の元に駆け寄り、差し出された手を握ると二人は部屋を後にした。
最後までお読み頂きありがとうございます。ご感想等ありましたら頂けると幸いです。
こちらの話は前作のラストが救い用のない話でありながら(ネタバレ)、次作で登場人物がしれっと普通に暮らしてるのには違和感があるだろうと思って書きました。
また、こちらの話に最初微ざまぁの要素を入れようと入れようかと思いましたが、それは時代の制度的に無理がありそうだったので、別枠でダークなざまあ(ジャンルはホラー)を書きました。
相続を放棄した経緯と、婚約破棄した彼の行方について書いています。
「婚約破棄した男が嵌った罠 -ある娼館での出来事-」
https://ncode.syosetu.com/n3917jo/




