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5.いざ、お茶会へ

 エドガーとシャーロットがお茶会の約束をした日がやって来た。

 オーギュストはちゃんとハンカチにアイロンが掛かっているか最終確認すると、落とさないよう、それを胸ポケットのしっかりと奥へと入れて馬車に乗り込んだ。


「あー、緊張する」

 道中の馬車の中、オーギュストはエドガーに寝癖はついていないか、髭はちゃんと剃れているかなどを何度も聞いて、エドガーを少しうんざりさせていた。

「それにしても、君は意外と言ったらと失礼だけど、見た目によらず繊細な部分があるんだな」

 変な部分が細かい、そう言うところがちょっと面白いとエドガーは笑った。

「だけど、意中の女性……エリザベス嬢が未婚だったのは良かったね。これでやっとスタートラインに立てたと言うところかな」

 今度は少し、真剣な様子でエドガーは言った。


 スタートライン。

 オーギュストも心の中でそう呟く。

 確かにそうなのだ。お礼を言ってハンカチを返せば全て用事は終わってしまう。

 でも、次につなげるにはどうしたら? 


 彼女の好きなものは?

 趣味は?

 そう思うと、オーギュストは彼女のことを何も知らないことに今更気が付いた。


 ただ会えるということだけに喜びを感じていたが、それだけでは上手くいかないというのが恋愛というものだ。

 それに、結婚はしていなくても実は恋人がいるかもしれない。

 そんな不安も一瞬オーギュストの頭を掠めた。


「まあ、まずはちゃんと自己紹介からだな。話の辻褄を合わせるために、もう一度おさらいしよう」

 オーギュストの心を見透かしたように、エドガーは彼の”設定”、幼いころ両親に連れられ新大陸に渡ったのだが、その両親を早くに亡くしてしまった。

 だが、運がよかったことに、彼の父親が秘書として携わっていたある事業家が彼を不憫に思い、生活の面倒を見ていてくれた。

 それに、彼は成績が優秀だったため今後役立つよう、現在は各地の人がどういった暮らしをしているかを勉強するために、現在はさまざまな場所を周っているということを確認した。


 半分嘘で、半分本当といったような感じだ。

「それと、事業家の名前、これは言わないようにしておこう」

「えっ、でも怪しいって思われないかな。せめて架空の名前にしておいたほうがいいんじゃ……」

「いや、変に名前は出さないほうがいい。僕が見た感じ、あの母親はお喋りそうだからね。もし、架空の名前を誰かが調べたりでもして、存在してないことが分かったらきっと大騒ぎすると思うよ。セキュリティ上の都合でどうしても言えない、そういう約束で旅をしているという話にしておけばいいと思う」


 ああ、確かに。

 とオーギュストはあの母親の顔を思い浮かべた。

「あと、君はさすがに件のご令孫なだけあって、自分では気が付いていないのだろうけど、やはりところどころ所作に品がある。それに、僕が政治や経済の話をしてもついてきてくれているじゃないか。今まで受けてきた教育の結果は思う存分発揮していいと思う。苦労人ではあるけれど、ちゃんとした環境で育てられた”本物だ”と思わせることが重要だ」

 本物と思わせるようにするか。

 まるで詐欺師にでもなったような気分だなとオーギュストは軽く笑った。


◆◆◆


 そうこうしているうちに、馬車がエリザベスとシャーロットの邸宅へとついた。

 その家自体は昔ながらのレンガ造りで小ぢんまりとしており、その周りには広大な牧場や畑が広がっている。

 ここら辺の地主であればよくある造りの家だった。


 玄関先にはすでに、アフタヌーンドレスを着たエリザベスとシャーロット、そして彼女たちの母親が立っていた。

「ようこそおいでくださいました、エドガーさん。さ、どうぞ入ってください」

 笑顔を浮かべているが、まるでオーギュストが見えてないかのように、母親はエドガーにだけ挨拶をすると中に入るように促した。


「もう! 恥ずかしい」

 いたたまれなくなったシャーロットは、こそこそっと母の無礼を許してねとオーギュストにささやいた。

「大丈夫、気にしてないよ」

 想定内のことだからと言いたくなったが、それは嫌味になるのでオーギュストは口を結んだ。



 彼らは庭全体が見渡せるティールームへと案内された。

 テーブルにはすでに茶菓子と数種類のスコーン、そして焼きたてでいい匂いのするミートパイが並べられていた。


 改めてエドガーとシャーロットの自己紹介と経歴の話をした後。

「あら、あなた孤児だったの。やっぱり」

 オーギュストの身の上話になったとき、紅茶を飲みながら母親は、やはり自分の関心に値しない男だと興味なさげにそう言った。

 シャーロットのほうは、だから空腹になると不機嫌になるのかしらと心の内で妙に納得した様子だ。


「ところでエドガーさん、うちのシャーロットは……」

「コホン」

 エリザベスが軽く咳払いをする。

「お母様。シャーロットだって、自分のことは自分で話したいと思うの。それにエドガーさんだってシャーロットと二人だけでお話したいかもしれないじゃない」

 確かに先ほどから、シャーロットが何か話そうとすると、うちの娘はこれがすごいと母親のほうが割り込んできて話す場面が何度もある状況だった。


「若い人同士でしかできない話だってあるのだし……」

 ダメ押しのようにエリザベスがそういうと、それもそうね、では私は失礼させていただきますわホホホ……と少し気まずそうに笑って母親はティールームから去っていった。

「お二人とも紅茶は飲み終わったようだし、ここに居ても母がまたなんだかんだ割り込んできそうね。今日は天気がいいし、お庭を散歩してみない? シャーロット、オーギュストさんは私がアテンドするから、あなたはエドガーさんをご案内しなさいな」

 そう言ってエリザベスは席から立つと、庭へつながる出入り口のほうへ二人を案内した。


◆◆◆


 先にオーギュストとエリザベス、後ろにシャーロットとエドガーが続いて彼らは庭へと出た。

 広大な庭には、ところどころにブナの木が生えており、のんびりとした様子で顔の黒い羊が草をもぐもぐと食べている。

 一部は手入れの行き届いた庭園となっていて、色とりどりの様々な花が咲いていた。


「シャーロットが会わせたい人がいると言っていたから誰かと思ったけど、まさかあなただとは思わなかったわ」

 エリザベスが今日まで誰を会わせるのか秘密にされていたことを明かした。

「あの時は見苦しいとおころをお見せしてしまって……」

 恥ずかしさを隠すように、オーギュストは頭をかいた。


「そうだ! 忘れちゃいけない、これをお返しに来たんだ」

 そう言って彼は胸ポケットを探ると、アイロンのかかったハンカチを取り出してエリザベスに手渡した。

「あら、そんなわざわざ返さなくても良かったのに。ところで、お菓子のほうは口に合ったかしら?」

「はっはい、僕が今まで食べた焼き菓子の中で一番おいしかったと思います!」

 まるで軍隊の上長に従う兵士のようにピシッとしたいで立ちでオーギュストがそう答えると、エリザベスはぷっと噴き出して笑い、本当、あなたって面白い方ね。と言った。


「敬語だと緊張するのかしら。いいわ、気にしないでもっとラフに話してちょうだい。それに、そんなにおいしいと言ってもらえたら、調理係のアンも大喜びすると思う。後でお土産に何個か包むよう言っておくわね」

 と、エリザベスがいうと、よ、喜んで! とまた直立不動をする姿に、また彼女はやっぱり面白いと言って笑うのだった。



 一方、そんな彼らの様子を見て

「ねぇ、エドガーさん。あの二人、ちょっと雰囲気がいいと思わない?」

少し茶化すようなそぶりで、シャーロットは彼らのほうを指さした。

「確かに。僕としても、あの二人は結構いい相性してるんじゃないかなぁって思う」

「ねえ様があんなに笑っているの、久しぶりに見たもの。それに……オーギュストさん、ねえ様に一目ぼれしてるわね。あれは絶対にそう。」


 えっ?

 とエドガーは驚きの声を上げた。

「どうしてそう思うの?」

「ふふっ、女の感……というものを差し置いてみても、彼の態度を見ていたらわかるわよ。だってずっとねえ様のことを見つめているもの。当のねえ様本には気づいていないようだけど。それに、根も悪い人ではないと思う」

 言われてみれば、確かにシャーロットの言うとおりだ。

 オーギュストは何かとエリザベスの仕草が気になっているというより、まるで女神が隣にいるかのように見つめている。

 相手の仕草だけで見抜くなんてなかなかの観察眼の持ち主だとエドガーは感心した。


「ところで、相性がよさそうと言うからには……お姉さんには恋人がいないのかな? かなりの美人なのに」

「ええ。そうよ。もうずっと……」

 先ほどの明るい様子とは打って変わって、シャーロットは何かを思った様にまじめな顔をした。


「まあ、ねえ様にもいろいろとあったのよ。でも、私からは言えないわ。それに女は秘密があったほうがミステリアスでしょ? だから内緒。あっ、ねえ見て! 野兎が顔を出してるわ!」

 まるで、話をはぐらかすかのようにシャーロットは穴から顔を出した茶色い兎を指さし、それ以上エリザベスのことを語ろうとはしてくれなかった。


 肝心な部分が聞けなかったなあとエドガーは思いつつ、一緒に野兎を探していると、遠くのほうからすみませーん、エリザベス様! と女中が大きな声を出しながら走ってくるのを目にした。

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