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44.最高の友人

 朝から降っていた雨も、ティータイムが過ぎる頃にはすっかり止んでいた。

 だが、二人は夕方になっても昨晩の酒がまだ抜けずに、オーギュストの部屋でぐったりとしていた。

「そういえばエドガー、昨日の晩のこと覚えてる?」

「……お願いだからそれ以上は言わないで欲しい」

「……わかった」


 そんなどうしようもない二人に、シャーロットが尋ねてきたとシャルルから声がかかった。

 彼らは彼女が待っている応接間に行くと、シャーロットがちょこんと一人だけ椅子に座って彼らを待っていた。

 彼女は彼らの顔を見て、振られたオーギュストだけではなく何故かエドガーも顔色が悪かったため、二人共大丈夫か? と尋ねた。


「オーギュストさん大丈夫? ちゃんと寝れた? なんだかエドガーさんも顔色が悪いみたいだけど」

「……うん、気にしないで。大丈夫」

 顔色が悪い原因は、泥酔した上に二人で……とは流石に彼女には口が裂けても言えなかった。

「ところで、なんでこちらに来たの?」

「それはもちろん、オーギュストさんが心配だったからよ。あと一応、情報共有ね」


 シャーロットによると、昨晩からエリザベスは部屋に鍵を掛けてしまっており、自分から何か言われるのが嫌みたいで、今日はまだ一切顔を合わせてないと伝えた。

「だから、私からは大した情報はないのだけど。でも、オーギュストさんがちゃんと生きてて良かったわ」

 "ちゃんと生きてて良かった"

 彼女が言ったことに、何だそれとオーギュストは軽く笑った。


「だって、昨日の落ち込み具合が酷かったから。それに、ねえ様に断られたせいで相続もできなくなってしまうんじゃないの? だから申し訳なくて」

 シャーロットはごめんなさいと彼に頭を下げた。

「ああ、いやいや、それについては大丈夫だから! どうか謝らないでくれるかな」

 慌ててオーギュストは頭をあげるように彼女に求めた。


 「実は……」

 と言って、オーギュストは遺言が更新されていた事、花嫁探しをちゃんとやっていたと言う事が認められて、正式に遺産諸々を継ぐ事になったと彼女に話した。

「なーんだ! そうだったの」

 シャーロットは目をパチクリさせた。

「私はてっきり、ねえ様が断ったせいで、オーギュストさんが路頭に迷ったらどうしようってすごく心配してたのよ」

 とりあえずその点は安心したと彼女は言い、オーギュストは更にその兼ね合いで急遽帰らなければならなくなった事も伝えた。


「だけど、それなら尚更、遺産が欲しくてねえ様と無理やりにでも結婚したかったと言う訳でもないじゃない。やっぱり、旅立つ前にちゃんと誤解を解いた方が……」

 シャーロットがそう言ってる途中で、オーギュストは首を横に振った。

「いや。もういいんだ。もう終わってしまった事だし。それに、言い訳がましい事を言って余計に拗れるのも嫌なんだ」

 エリザベスに会う以前も何度も傷ついてきた。これ以上また傷つくのが僕は怖いと彼は付け加えた。


「そう……それがあなたの出した答えなら仕方ないわね。あなたにはねえ様と幸せになって欲しかったけど」

 シャーロットは残念という表情を浮かべながら、肩を竦めてそう言った。


 プロポーズは失敗してしまった。

 だけど、それでも僕はここに来て良かったと思っている、とオーギュストは二人に伝えて微笑んだ。

「僕は結婚相手を見つけられなかったけど、ここに来て、君たち二人っていう素晴らしい友人を得られた事が何よりもの宝物だよ」

 僕のために今まで協力してくれてありがとうと言って、オーギュストは椅子から立ち上がると、エドガーとシャーロットをそれぞれ抱きしめた。


「ちょっと、やめてよ! そんな事言ったら明日の出発まで泣かないって決めてたのに、今泣いちゃうじゃない」

 シャーロットは目を潤ませて唇を食いしばるようにしている。エドガーの目にもうっすらと涙が浮かんでいるようだ。

 一方のオーギュストも、泣くまいとしているのか天を仰いだ。


 だが、ああ、それと大事な事を聞き忘れた! とオーギュストは両手をパンッと叩いた。

「大事な事?」

 エドガーとシャーロットは二人同時に声を揃えてそう聞いた。


「今まで、僕のことを二人にはサポートしてもらったけど、君たちの仲は今どうなっているのかなと思って」

 オーギュストのその言葉に、エドガーとシャーロットは目が点になると、二人同時に

「はあ?!」

と叫んだ。


「だって昨日の夜、酔っ払ってエドガーがシャーロットの事を可愛いって叫んでたんだから」

 その言葉に、シャーロットは顔が茹でダコのようになり頬を押さえ、エドガーはゴホンゴホンと咳き込んだ。

 そして

「願わくば君たち二人が結婚してくれたら、なお僕は嬉しいけどね」

とオーギュストは言ってニヤニヤ笑うのだった。

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