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43.僕たちの黒歴史

 朝からシトシトと雨が降っている。

 朝食の時間になってもオーギュストが起きてこないため、ラファエルはシャルルに様子を見に行くように頼んだが、まだ寝ているのか反応がなかったとシャルルは彼に伝えた。


 しかし、昼になっても起きてくる様子がなかったため、流石にグラハム夫人も心配な表情を浮かべていた。

「昨晩の落ち込み様は酷かったみたいだから、一応エドガーが付いててくれているとはいえ心配だわ」

 彼女はラファエルにそう話すと、執事に部屋のマスターキーを持って来させて、念のために様子を見に行かないかと彼に提案した。


◆◆◆

 

 昨晩、エリザベスが突然帰ってしまったとシャーロットから伝えられたエドガーは、それはおかしいと彼女と一緒に急いでテラスへ向かった。

 すると、テラスのベンチには両手で額を押さえて座り込んでいるオーギュストがおり、彼らは駆け寄った。


「どうした? 何があった?」

 エドガーがそう声をかけても、オーギュストからはため息しか出てこなかった。

「……もしかして、ダメだったの?」

 シャーロットのその問いに、オーギュストは無言で頷いた。すると二人は、信じられないとでも言うように小さく声を上げた。


「そんな……どう見たって、あれは上手くいきそうだったじゃないか。何か彼女を怒らせるような事でもしたのか?」

 エドガーはまさかとは思うが、と付け加えて彼にそう聞いた。

 すると、オーギュストはまた大きくため息をつき、彼女も去ってしまったからもう話してもいいかと、先ほど起きた事実を述べた。


「つまり、あなたたちはずっと私達に嘘をついてたの?!」

 シャーロットはオーギュストが本当は苦学生ではなく、実は結婚相手を探しに来ていた御曹司であったと聞いて

「どうして本当のことを言ってくれなかったの!」

と大声をあげて彼らを攻めたが、まあまあ、とエドガーは彼女に落ち着くよう求めた。


「別に悪意があったわけじゃないんだ。それに、もし初めて僕らが会った時に、オーギュストが本当のことを言ってたらどうなってた思う? 君の母上が会う事すら承諾していない姉上の首にロープをつけて、無理やり縁談の席に座らせてた可能性もなくはないだろう?」

「……そう言われてしまうと、確かに」

 シャーロットは、もしそうだったらと想像した。


 莫大な遺産を継ぎ、しかも母方の血筋はフランス貴族という若い男との縁談。母としては願ってもない話だ。

 お互いの事を何も知らないのに、明日にでも結婚しなさいといって圧をかけただろうとは容易に想像ができた。

 だか、そんな事を無理やりしたら、結婚を嫌がっていた姉はオーギュストに恋愛感情どころか嫌悪感を抱いたであろう。

 失敗していた事は目に見える。


「まあ、でも彼女の信頼を失ったのは事実だから。なんかもう疲れた……僕は、部屋に戻って休むよ」

 オーギュストはため息を吐きながら立ち上がると、元気のない様子でテラスの別の出入り口へと歩き始めた。

 さすがにこのまま放っておくのは不味そうだと感じたエドガーは

「僕も君の部屋までついていくよ。そう言う訳だから、シャーリー。悪いけどパーティの途中でさようならだ」

と言って彼女に別れを告げた。


 シャーロットはあまり気を落とし過ぎないでと言って、二人がテラスから出ていくのを見送った。

 ふと空を見れば、月に雲がかかっている。明日は雨が降りそうだと彼女は思った。


◆◆◆


「シェリル! シェリル! 起きなさい」

 ラファエルは何度もドアを叩いたが、誰もいないかのように返事か全くない。

「シェリル! あなたが開けないならもうこちらで開けますよ!」

 そう言ってラファエルはドアをマスターキーで開錠して、シャルルとともに部屋へと急いで入った。


 するとーーー


 部屋の中は酒の臭いが充満していた。

 ベッドには、シャツをほぼ着ていないと言っていい状態のエドガーがうつ伏せで倒れており、なぜか肌にはところどころあざができていた。

 そして酒瓶やナイフが乱雑に置かれた大きなテーブルの下には、椅子にもたれ掛かるようにして目を瞑り座り込んでいるオーギュストがいた。

 しかも、彼をよく見ればシャツに大きな赤い汚れがついている。


「シェリル!!」

 その姿を見て、いつもは冷静なラファエルもさすがに血相を変えた。

 急いで彼を揺すぶったが反応がない。

「きゃああ! なんて事!」

 後から部屋に入ってきたグラハム夫人は、オーギュストとエドガーの姿を見て悲鳴をあげた。

 まさか、悲観したオーギュストはエドガーを道連れにして命を……


 と、一同は最悪の事態を同時に想像した。


 だが、オーギュストの体は死体のように固く冷たくなっているわけではない。

 さらによく確認してみれば、ちゃんと呼吸もしているようだ。

 では、この汚れは……? とラファエルはよくよく観察すると、それは血ではなく床にボトルが転がっている赤ワインのシミであると想像がついた。

 安堵したのか呆れたからかわからないが、彼は大きくため息をつくと、起きなさい! と言ってオーギュストの頬をパチパチと叩いた。


◆◆◆


「起きなさい。起きなさい!」

 聞き慣れている男の声で頬を叩かれたオーギュストは、ゆっくりと目を開けた。

 だが眠さには勝てず、うつらうつらしていると、男からエリザベス嬢が来ていると言われた。


「えっ?! エリザベスさんが?」

 オーギュストはパッと目を見開き、ぼうっとしていた世界から一気に現実へと引き戻された。

「どこ?!」

 彼はあたりをキョロキョロしたが、乱雑した部屋の中にはラファエルと、シャルルと、心配そうに見つめるグラハム夫人しか見当たらなかった。


「ようやく起きましたね。残念ですが、エリザベス嬢はいらしてません。ところで、この状況は一体なんなんですか?」

 ラファエルはそこらじゅうに置かれた飲みかけの酒瓶やグラス、そしてようやく起きたエドガーの事を差した。 

 オーギュストはこの状況はと言われてもと口走ると、ズキンと頭が縛り付けられるような痛みを感じた。


 この状況……この状況……

 彼はゆっくりと昨日の事を思い起こした。


 確かエドガーと二人で自室に戻った後、あまりにも自分が落ち込んでいたため、いつのまにかエドガーは自分のためにワインやらウィスキーなどを持ってきたのだ。

 普段ならそこまで二人は酒を飲まないので、最初はしんみりと少しずつ飲んでいたものが、その日に限ってはいつのまにかボトルを一本、二本、三本と開け、気がつけば二人は泥酔状態となっていた。


 酔って気持ち良くなったのか

「あー、本当、せめて! せめてキスくらいはしたかった!」

オーギュストは部屋の中で手を広げながらそう叫んでいた。

 ベッドに腰掛けていたエドガーもいいねー! と大きな声をあげている。

「キスかぁ。どんな風にするの?」

 エドガーがそう聞くと、オーギュストは彼の元に笑いながらやってきて、こんな風にかなぁと言って、エドガーの唇に自身の唇を軽く触れさせた。


 すると、エドガーは彼からのキスを嫌がるどころかケラケラと笑うと

「僕だってシャーロットとキスしたいよ! あのこは本当に可愛い!」

と叫ぶと、彼はオーギュストの顔を両手で包むと、まるで愛しい恋人とするように濃厚なキスをした。

 二人は唇を離すと、あぁ、もう我慢できないと言ってさらに激しいキスを繰り返してそのままベッドに倒れ込んだ。

 そして、オーギュストが覚えているのはエドガーのシャツのボタンを外して……


 そこまで思い出すと、オーギュストは自分は服を着ているかと慌てて確認した。

 良かった上下ともに着ている! と安心したのも束の間、彼は強烈な頭痛と吐き気に襲われてバスルームに駆け込んだ。


 一方、同じく目覚めて起き上がったエドガーも、確か昨日の晩は酒を飲んでいい気分になって、オーギュストと……

 その事を思い出したせいで頭が痛いのか気持ち悪くなったのか、またグッタリとベッドに倒れ込んだ。

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