38.窓辺の令嬢
家族全員でオーギュストが乗った馬車を見送ったあと、エリザベスは自室の窓辺に座り昨日の夜の事を思い出していた。
「僕と一緒に帰りませんか?」
突然、一緒に星を見ていたオーギュストからその提案を受けた彼女はとても驚き困惑した。
「帰るって……あなたの国へ? 本気なの?」
エリザベスは以前、夕食でシャーロットが言っていた事を、オーギュストが間に受けてしまったのかと心配したのだ。
「ねぇ、シャーロットの言ってた事なら、あれはただの冗談よ。そんなに真面目に取らないで……」
「いいえ、冗談ではありません。僕は本気です」
オーギュストは首を横に振って、ずっと前から考えていた事だと彼女に伝えた。
「急な話だから戸惑うのは仕方ないと思っています。だから、今度のパーティの時に返事を聞かせてもらえませんか?」
そう言って自分を見つめる彼の目は真剣そのものだった。あれはとても冗談だとは思えない。
彼女がそう物思いに耽っていると、シャーロットがドアをノックして彼女の部屋に入ってきた。
「あら、ねえ様。そんなところに座って何か考えていたの? ひょっとしてオーギュストさんと何かあったの?」
「えっ? ……別に何もないわよ」
エリザベスは窓辺から離れると、鏡台の椅子に座って髪型を直そうとした。
「うそ。朝食の時にすごく二人ともぎこちなかったもの。馬車を見送る時だって変だったし。さては、オーギュストさんから告白でもされたの?!」
その言葉に動揺したのか、エリザベスは手に持っていた櫛を床に落としてしまった。
シャーロットはベッドに腰掛けながら、図星だとでも言うように、ふふふと笑っている。
「やあねぇ。そんな告白だなんて。あなたがこの前変な事を言ったから、そうしなければと思ってしまったのか、私に一緒に帰らないかって行ってきたのよ。彼」
エリザベスは櫛を拾いあげると、再び髪を直そうとした。だが間髪を入れず
「そうなの!? それで、それで?! ねえ様はどう返事したの?」
と興奮気味にシャーロットは聞き返した。
「どうって。そんな急に言われてもすぐ返事なんてできなかったし、第一、一緒に帰らないかって言われただけよ。だから、告白という訳では……」
「いいえ、それは告白されたも同然よ! で、どうなの?! ついて行くの?」
自分の話を聞こうとしない妹に、エリザベスは心の中でため息をついた。
正直、彼女の中ではオーギュストのことを男性として意識したことはなかった。それに、自分たちは五歳も歳が離れている。
シャーロットはきゃあきゃあ言っているが、向こうだってこちらにその様な気持ちは無いだろう。
そんな風に彼女は考えていた。
きっと彼はただ純粋に、自分が新しい地で暮らす事を提案してくれているだけだーーー
「……」
彼女は鏡を見ながら、自分の未来の事を考えた。




