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30-2.予期せぬ再会

 オーギュストは緊張していたものの、忘れないでほしいというように腹がまたしてもグーっと鳴った。

 自分でもどれだけ食欲の方が強いんだと呆れつつ、ここは素直に従おうと彼は最初の目的だった屋台に向かうことにした。

 そして、屋台で色々なものをつまんでいると、何やら人々がゾロゾロと広場の方に集まり始めているのが目に入った。


 そういえば、そろそろエリザベスもお喋りを終えた頃だろうか? とオーギュストは思うと約束していた会場の方へと向かった。

 だが、待ち合わせ場所付近に行ってもエリザベスは見当たらなかった。

 人混みも多くなってきたため、別の場所にいるのかと彼は少し遠くを見渡すようにしていると、左手の方にエリザベスがいる事に気がついた。


 ……あっ、いたいた。あっちに行こう……


 オーギュストは彼女の方に向かって歩いた。

 だが、彼が彼女のそばに行こうとすると、なぜか彼女は血相を変えて人混みを掻き分けてどこかに行こうとしている。

「エリザベスさん!」

 声を張り上げて名前を呼んだが、周囲の音で彼女の耳には届かないようで、彼女は群衆の流れには従わず、横の方向へと移動して行った。


 彼は何があったんだろうと、彼女を追いかようとしたが、クライマックスの開始が告げられ、人々がさらにオーギュスト側に押し寄せてきたため、彼は人混みに紛れてとうとう彼女を見失ってしまった。


◆◆◆


「待ってくれ、エリザベス。どうして逃げるんだい?」

 自身の肩を叩いてきた男性から、エリザベスは必死に森の方面へと逃げた。しかし、とうとう追いつかれてその男に手を掴まれてしまった。


「どうしてって……あなたこそ、よくあんな人混みの中で声をかけられるわね……」

 彼女はそう言うと、この手を離してと彼に握られている手を無理やり振り解いた。

「そりゃ、偶然君を見かけたんだもの。それに、俺が何度も手紙を出してるのに、全く返事をしてくれなかったじゃないか!」


 この人は昔からそうだ。

 呆れたと言うように、エリザベスははぁと少しため息をつくと

「だって、あなたはもうすでに結婚している身でしょう? どうして独身の女が既婚者に平気で手紙を書けると思うの?」

彼女がそう返すと、今度は男の方がやれやれというように逆にため息をついた。


「だったら、俺が君に手紙を送っていたように偽名を使って返事をしてくれれば良かったじゃないか。それに俺はずっと君に愛してるって書いていただろう? 迷惑なら、もう手紙を送らないでと返してくれればよかった。だけど、君から拒否されることはなかったから、君だって俺のことをまだ愛してくれてると思っていたんだ! その証拠にまだ未婚なんだろう?」

「パーシー……」


 エリザベスが彼の名前を呼ぶと、男はやっぱり君じゃないとだめだと言って、彼女の手を再びつかむとそのまま抱きしめた。

「メアリーと結婚した後も、君のことを忘れることはできなかった。でも自由に君のもとには行けない。だから、せめて手紙だけでも送りたいと君の所へ送っていたんだ。やっぱり、あの時に君のことを選ばなかったことを今でも後悔しているんだ……」


 パーシーによると、妻のメアリーはとても嫉妬深く現在の夫婦仲は最悪だという。

 また自分には愛情を見せず、子供のことしかいつも気にしてくれない。

 結局、自分は単なる子供を作るための道具としか考えられていないんだと語った。

「今、密かに彼女とは離婚を考えているんだ。子供もできたことだし、俺の役目はもう十分だろう。だから、今度こそ俺は君と……」

 そう言ってパーシーはエリザベスに唇を重ねようとした。だが―――


「それ以上近づかないで!!」

 エリザベスはありったけの力を込めて、彼を突き飛ばしてパーシーに尻もちをつかせた。

「離婚なんてそんなに、簡単にできるわけないでしょう。第一、いくら愛がないといっても残された子供はどう思うの? 子供に対して愛情はないの?」


 パーシーは尻もちから膝まづくように態勢を変えると、聞いてくれと叫んだ。

「……エリザベス。子供にはもちろん愛情はある。でも、もう愛していない夫婦関係のほうが限界なんだ! 俺は君のことだけを愛してる。お願いだ、どうか信じてくれ!!」

「……」

 涙目で跪いて懇願する男に、エリザベスは目を伏せ首を横に振った。その目には少し涙を浮かべて。


「呆れた。まるであの時と全く同じね……でも、私はもう純粋で何も疑うことを知らなかった頃の私とは違うの。あなたのことを信用することなんてもうできないわ」

 そう言って彼女はパーシーの元を去ろうとした。

「どうかそんな冷たいことを言わないでくれ! 俺はどうしても君を愛してる気持ちは変わらない……」

 パーシーは涙を拭うと立ち上がり、エリザベスに行かないでくれと言ったが、彼女は振り返ることもしなかった。

 

「そうか。わかったよ、君の気持ちは。でも、ここで再会してしまった以上、もう自分を抑えられない!」

 ごめん、エリザベス。

 そう言ってパーシーは彼女の元に駆け寄ると無理やり後ろから羽交い絞めにした。

「何するの?! 嫌っ! やめて! やめて!」

 エリザベスは必死に身体を捻り、彼を振り解こうと抵抗した。


 だが、男の力には上がらうことができず、とうとう大地へと彼女は押し倒されてしまった。

「ああ、どうか許してくれ! エリザベス……こうでもしないと、やっぱり俺は君のことを諦められないんだ」

 そう言ってパーシーはエリザベスの服を引き裂き、さらに両手を押さえつけて彼女の上に覆いかぶさった。

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