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28.シャーロットのアイデア

 ジェームズが言った通り、それからすぐに使用料に関しては値上げしないとマコーリー氏は正式に発表した。

 これでエリザベスは彼と交際する義理はなくなったので、両親にマコーリー氏との交際を白紙に戻すと宣言した。

 二人はもちろん賛成だと言って、すぐに交際解消の申し入れのための使いを出したのだが……一向に一日たっても二日たっても連絡がエリザベスに届くことはなかった。


 交際解消を宣言されてよほどショックだったのか? エリザベスはそう考えたが、それにしても付き合う義理が無くなったとはいえ、あのしつこかったマコーリー氏なら、すぐ反対してきてもおかしくないのにと彼女は不思議に思った。


 あまりの反応の無さにエリザベスは少し不気味に思っていると、4日後くらいになってようやく交際解消の申し入れを受け入れると返事が返ってきた。

「なんでも最近、体調を崩しているのか側近と部屋にこもってばかりいるそうだし、仕事の方も滞っているらしいぞ」

 エリザベスの父親は新聞読むのを中断して彼女に教えた。


 どうやら、使用人たちが寝室から時々変な声が聞こえるので心配になって訪ねても、今は出たくない、部屋には呼ばない限り近く寄るなと取り合わない様子らしい。

 ようやく出てきてくれた時に、エリザベスから交際を解消してほしい言われていると伝えたところ、奇妙なことにすんなりとOKをだし、あんなに執着していたのにとてもそっけない様子だったそうだ。


「だが、まあ、交際を解消してくれたのだから、これ以上の心配は要らんだろ」

 父親はそう言うと、再び新聞に目を戻した。


◆◆◆


 一方、恋のライバルは消え去ったというのに、オーギュストは牧場で作業をしながらハァとため息をついていた。


 気が付けば、ここに来て2か月も経過している。

 自分の最大のミッションはエリザベスに告白して結婚を申し込むことなのに、自分たちの関係は一向に進展することはなく、どちらかというとむしろ家族的な雰囲気になっているのではないか? と最近からは思うようになっていた。


「ハァ」

 またオーギュストがため息をついていると彼の背後から

「そんなにため息をつくと幸せが逃げてしまうらしいわよ?」

という女性の声が聞こえた。


 彼が振り返ってみると、シャーロットがニヤニヤした笑いをしながら彼のことを見ていた。

「わっ! びっくりした。今日は踊りの練習じゃなかったの?」

 オーギュストがそう尋ねると、彼女は今日は終わりが早かったから今戻ってきたところだと彼に伝えた。


「何やら悩んでいるようね……でも、ライバルが減った今が最大のチャンスじゃない!」

 彼の前で両手でこぶしを作りながら、シャーロットはそう言った。


「チャ、チャンスって一体何?」

「やあねぇ。ねえ様との関係よ。見ていてこっちがやきもきしちゃう。ねえ様のこと、好きなんでしょ?」

 オーギュストはシャーロットからの直接的な質問に、なんと答えたらいいかわからず言葉を詰まらせた。


「……もしかして、エドガーが君に話したの?」

 ポリポリとオーギュストはおでこを掻いて、口は堅いと言っていたくせに、何で周りの人に話すんだろう……とオーギュストは彼のことを疑った。


 しかし、シャーロットは首を横に振りながら、それはない、ないとエドガーのためにしっかりと否定した。

「違うわよ。ねえ様が好きなことなんて、あなたに初めて会ったときからわかっていたわよ! そもそも興味がなかったらハンカチなんて返しに来ないでしょう。それに、あなたってば自分では気づいてないんでしょうけど、いっつも姉さまのことを目で追ってるし」

 ふふふとシャーロットは笑った。


「?!」 

 オーギュストは顔を真っ赤にして、お願いだからそのことは絶対に本人には言わないで欲しい! とシャーロットに頭を下げた。

「それはもちろんよ! むしろ応援したいと私は思ってるのよ。そして今、ねえ様に好きって伝えようかどうしようか悩んでいたというところでしょう?」

「……はい」

 思っていたことをシャーロットに見事当てられてしまったため、オーギュストはそう返事をするしかできなかった。


「じゃあ、ちょうどいいタイミングが来るわね!」

「いいタイミング来るって?」

 オーギュストはどういうことかと彼女に聞くと、彼女はこのように答えた。

「私が踊る予定のお祭りにねえ様も誘って行くのよ! それにこのお祭りは、実は昔から男女の出会いの場っていう裏の意味もあって。夜になると雰囲気もあってすごく素敵なの。デートにならピッタリよ!」


 いい案でしょ?と彼女はオーギュストに微笑んだ。

「それにね、このお祭りで終わりまで一緒にいられた男女は幸せになれるって言われてるの。だから、私の踊りを見に行こうって言えば、自然に誘えると思うわ」

 確かに彼女のアイデアは良いとオーギュストは思った。だが一方で、ある疑問が彼の中でふつふつと浮かんだ。

「確かに。でも、雰囲気が良いというのなら、それならエドガーのことももちろん誘ったんだよね?」


 その言葉に、今度はシャーロットの方が目をパチクリさせた。

「な、なんで私がエドガーさんを誘う必要があるのよ! エドガーさんは誘ってないわよ。だって、私の下手な踊りなんて見られるの嫌だし……」

 少し顔を赤くしてもじもじとしているシャーロットに、今度はオーギュストがニヤニヤと笑い始めた。


「わかった! じゃあ、僕からエドガーの方に、シャーロットが踊りを見てほしいと言ってたって伝えておくよ」

 オーギュストは道具をその辺に置くとニヤニヤしたまま、じゃあ善は急げだとエドガーのところに伝えに行くと走り出した。

「やだ! ちょっと待ちなさいよ! 待ちなさーい!!」

 止まろうとしないオーギュストに向かって大声を出し、顔を真っ赤にしながらシャーロットは慌てて彼を止めに走るのだった。

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