25.オペレーション:セバスティアヌス 表
誰もが寝静まった深夜。
老齢の男は約束の地である人気のない森に行くと、特徴的な大きな木の下で相手を待った。
自身の懐中時計を見れば、時計の針は一時を少し過ぎている。
夏らしく、樹々のむわっとした香りが彼の鼻腔をくすぐった。
さて、相手はいつ来るか……と彼がズボンのポケットに懐中時計をしまっていたところ、背後から彼の名前を呼ぶ若い女の声がした。
「ザラキエル様。お久しぶりですね。お待たせしましたわ……」
声の主は黒いローブを着た女だった。
深めにそのフードを被っていたため口元しか見えないが、綻んだ唇は赤く、月明かりのせいか肌がより青白く見える。
そして、彼女は細い手に携えた小さな袋をそっとザラキエルに差し出した。
彼はご苦労と言って、彼女の冷たい頬に手を添えると、彼女はその手に敬愛を示すキスをした。
「この地にお前が居てくれてよかった。もし、居なければミカエルを呼び出さなければならなかった」
彼は彼女に向かって微笑んだ。
「そんな、滅相もございませんわ。私はただ調合しただけですもの……でもレシピはミカエル様から頂いたものですから、効果は存分に発揮してくれるでしょう」
女はザラキエルから褒められたことに、うっとりとした表情を浮かべながらそう言った。
ですが……と彼女は言葉を続ける。
「僭越ながら申し上げますが、この手のことでしたら、わたくしを使ってくださって構いませんのに。なぜ……」
彼女がそこまで言うと、ザラキエルは彼女の事を見つめ、そっと自身の人差し指を彼女の唇に添えた。
「あいにくだが、これにおいてはお前ではだめなのだ。どんなに男を魅了するお前であっても。意味はわかるな?」
女は彼の言葉に、まあ……と声をあげると、確かにそれならわたくしには出番がありませんわねと妖しく微笑んだ。
「だが近いうちに、お前にも役立ってもらう日がくるだろう」
それまではきちんと"食事"をとり相手に悟られないように、と言ってザラキエルは彼女に背を向けると、来た道を引き返していった。
※こちらの続きの話のみ、内容がレイティングに引っかかるため、ムーンライトノベルズに「オペレーション:セバスティアヌス 裏」という題名で掲載しています




