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11-2.ラブレター

 台所から様子を伺っていたシャーロットがねえ様!と、彼女達の母親が辞めて! と叫び声をあげた。

 しかし、マリアンヌは彼女達の願いを聞くどころか

「うるさいねぇ! こっちに来るんじゃないよ! この女は人質だ。あんた達、全員動くな!」

と大声を出して、オーギュストも含めた全員をその場で制した。


「私の事はいいから、この人を捕まえて!」

 人質にされているエリザベスはそう叫んだが、ナイフを突きつけられているためオーギュストはもちろん動けるはずもなった。

「うるさい黙れ!」

 マリアンヌは彼女の首にナイフをさらに近づけると、エリザベスの白い首を少し傷つけたのか薄らと血を滲み出させた。


 ……くそ、油断した。どうやったら彼女を助けられる?!……


 必死に策を頭の中でオーギュストは考えたが、まったくいい案が浮かばない。

 そうこうしているうちに、マリアンヌが口を開いた。

「ちょっと、あんた!」

 彼女が呼びつけたのは、プレストン夫人だった。思いもよらず呼びつけられた夫人はヒィッと悲鳴をあげた。


「ブローチをそこのテーブルに置け! 早く! この女がどうなっても良いのかい?!」

 プレストン夫人はビクビクと怯えながら、エリザベスの母親から受け取ると、指示されたテーブルの上へブローチを置き、素早くまたその場を離れた。


 マリアンヌは無言のまま、エリザベスを押さえながらテーブルに近づくと、オーギュストの事を警戒しながら、そのブローチをドレスのポケットの中に入れた。

「ブローチは手に入れたんだから、彼女を返してくれ! 頼むから!」

 オーギュストが叫んだものの、マリアンヌはエリザベスを解放せず、動くなって言ってるだろう! この女は逃げ切るまで人質にする! と言って、壁を背にして、廊下に続く出入り口から逃げようとした。


 だがーーー


 マリアンヌの背後から誰かが近づくと、彼女の両手をガシッと掴んだ。

 そのはずみでナイフがポロッと落ちたため、オーギュストは解放されたエリザベスを素早く抱き止めて、マリアンヌから距離を取った。

「……!? 放せこの野郎! ふざけんな!」


 必死の抵抗で身をジタバタさせるが、相手も力を込めてマリアンヌの事を押さえ込んだ。

「何があったかわからないけど、ご夫人、抵抗しないでください!」

 そう押さえ込みながら叫んだのは、なんとエドガーだった。



 実は少し前にエドガーはこちらの家にやってきたのだが、扉を叩いても誰も出てこず、さらに誰かの叫び声が聞こえたため、咄嗟に彼は家の中に飛び込んだのだ。

 そしてそこで目にしたのは、なぜかナイフをエリザベスに当てている女と、その女から彼女を助けようとしているオーギュストという光景だったのである。


「ああ、もう、クソがぁっ!!」

 腕力では抵抗できないと悟ったマリアンヌはそう叫ぶと、あちらこちらに足を地団駄させて、思いっきり靴のかかとでエドガーの足を踏みつけた。

「うっ……痛!」

 痛がる彼の隙をつき、マリアンヌは彼を力一杯押し飛ばすと、走りにくい靴を脱ぎ捨てて玄関の方に向かって駆け出そうとした。


 しかし、今度はオーギュストが彼女のことを追いかけた。

 彼女は廊下の置物などを薙ぎ倒して彼のことを妨害しようとしたが、彼は彼女に追いつくと手を伸ばして後襟を思い切り掴み、前に向かって力任せに体重をかけ、彼女のバランスを崩して前に転げさせた。


「ぎゃっ!!」

 彼女は手をつく事ができず、顔面を殴打したようだ。鼻からは血が出ている。

 オーギュストは躊躇う事なく、彼女が起き上がれないように素早くうつ伏せ状態にさせたまま馬乗りになると、彼女の両腕を押さえた。

 それでもなお、マリアンヌは凄い形相をしながら足をジタバタさせ、オーギュストからなんとしてでも逃れようと必死に抵抗した。


「早く、何か縛るものを!」

 彼は振り返ると、後ろで様子を伺っている皆に向かって叫んだ。

 絶対に逃がさないようにするため、エドガーも加勢して彼女の足を押さえた。

 それに応えて、どこからかシャーロットがロープを持って駆け寄り、彼らがマリアンヌの両手と両足をキツく縛り上げると、観念したのか疲れたのか、散々暴れ回った彼女も大人しくなった。


 ようやく捕まえた。とオーギュストは一安心したが、激しく抵抗にあったため、ティールームも廊下も酷い有様になっていた。

「後で片付けが大変だ」

 オーギュストは軽くため息をついた。

 しかし、今は村の警備隊に連絡する方が先だ。

 とりあえず片付けは後にすると決め、オーギュストとエドガーは警備隊が引き取りにくるまで納屋に閉じ込めておこう、と詐欺師の女を運ぶのだった。

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