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【お前を愛することはない……ことも、ない】と言ったその氷の貴公子(火属性)が描く彼女の肖像画はとても可愛い。  作者: ぷり
■ルイス4年生■

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33/40

【33】エステルの誕生日②


 個展を見て回り、しおりを見せると、出口付近にある個室へと通された。


 中には、作者であるブルダリアスがいて、『まあ小さなお客様だこと』、と歓迎してくれた。初老の女性だった。


 横で見ていると、エステルが、感動で泣き出しそうになるのを堪えているのがわかり、すこし手をギュ、と握ってしまった。

それに気がついたエステルが、ルイスを見てニコリとした。


 ブルダリウスは結構お喋りなおばあさんで、エステルはサインだけ貰って帰ろうとしたのに、ソファに座り込んでしばらく喋りこんだ。


「まあ、跡取り娘で絵が勉強し辛いのね?」

「あ、はい」

「私もそうだったのよ」

「え、そうなんですか」


「ええ、でも家業をしながらすこしずつ描き続けて。子供に継いでもらってから本格的に絵を描き始めて……それでもこんな個展を開けるまでに至れたわ。大丈夫、芸術はいつだって貴女を待っていてくれるわ」


 穏やかに優しい笑顔でエステルを応援してくれるブルダリウスに、エステルは涙しながら聞いていた。


  サインを画集にしてもらい、個展の外にでたエステルはとても嬉しそうな表情で、それを抱きしめていた。


 ルイスは、この笑顔が曇らないようにと思いついた事を提案した。


「エステル。良ければその画集なんだが、マジックアイテム屋で保護と保存の魔法をかけてもおう」


 エステルはハッとした。


「そうですね、はい! すぐに行きたいです!! すごいです、先輩! 良くお気づきで!!」

「よし、行こう」


 二人は手をつないで、近くのマジックアイテム屋へと行き、その後で貸し切りにしたカフェへと向かった。


******


「エステル、どうした?」


 エステルは、ぽかーんとした顔をしていた。

 

「え、ルイス先輩。店舗貸し切りにしたんですか?」

「ああ。これはオレの親からのエステルへのプレゼントだ」

「えええ! さすがに恐れ多いです!!」

「そうか。だがもうこうなってしまったからには、楽しんで欲しい」


 あたふたしているエステルの手を取って席へ導く。


「あ……、は、はい!! って……あ、あの、なんですかこのテーブル! 風船とか花とかいっぱい……まるでパーティ……ってああ!? ビスクドールがいる!?」


 席にエステルを座らせると、ルイスはテーブルに置いてあったビスクドールをエステルに手渡した。


「エステル、誕生日おめでとう」


 ビスクドールはエステルと同じ髪色と瞳をして、ソバカスがあった。


「これ……まさか、私ですか!?」

「そうだ」


「え、人形職人はどうやって私をモデルにこの子を作ったんですか!? 先輩が描いた絵は全部我が家に……」

「オレが絵を改めて描いて職人に渡した」


「!?」

「自宅で描いた。もうオレは見なくてもお前を描ける」

「極めすぎでは!?」


「ちなみに保護と保存魔法でコーティング済みだ。たとえ珈琲をこぼしたとしても大丈夫だぞ」


「どこまで到れりつくせりなんですか!? ありがとうございます!?」


「普段から描かせてもらってる礼だと思ってくれ」


 そういって、ルイスはそこにあった花束から花を一輪とって、エステルの髪に挿した。エステルの頬が赤くなる。


 ――エステルがあたふたしてるのが、可愛い。

 ああ、この構図いいな。

 この絵を描きたい。


 ルイスは不思議と落ち着いていた。


 エステルはすこし深呼吸すると、改めてお礼を言った。


「えっと……このビスクドール、とても可愛いです。ありがとうございます、本当に……こんなに可愛く作っていただいて……。わ、わたし。ルイス先輩を自分の誕生日にはお呼びしていないのに……こんな、いっぱい頂いてしまって」


「それはオレが男だからしょうがないだろう? おまえの親が女子しか呼ばないと決めているのだから」


「えっと、来年は父に言って、絶対ルイス先輩をご招待します! というかルイス先輩のお誕生日会は!? 私は呼んで頂けるのでしょうか!?」


「同級生を何人か呼んで家庭内で簡単にすませた。そんなので良いなら、呼ぶが」


「心温まりそうな良いパーティじゃないですか! 絶対行きます!!」


 エステルが前のめりになってルイスに言う。

 

 ――顔が近い。


 先ほどから落ち着いていたルイスだが、さすがにドキリとした。


 やめてほしい、そのままキスしてしまいそうだ。


「そうか。楽しみにしている。……ところで、紅茶のコースでいいか」


 メニューを取ってごまかした。


「はい! あ、遠慮なくいいますよぉ! 私、ミルクティーがいいです!!」

「わかった」


 二人でメニューを覗き込んで、チョイスする。


 エステルは終始、この日は嬉しそうだった。


 帰り際、彼女の馬車まで贈るとエステルが乗り込む時に振り返って言った。


「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました、ルイス先輩」


「ああ、楽しんでもらえたようでよかった。気をつけて帰ってくれ」


 ルイスは、最後まで今日は何も失敗せずエステルを楽しませることができてよかったと、自分で自分を褒めてやりたい、そう思っていた時。


 エステルが背伸びして、ルイスの頬にキスをした。


「では、また学院で」


「(宇宙猫)」


「あ、失礼でしたかね? ごめんなさい。今日は一日とても嬉しかったので、つ……つい」


 おかしな話ではない。

 しかし、かなり親愛なる相手にするものだ、お礼で頬にキスをするのは。


 ルイスはもう内心わけがわからないくらい狼狽して、思わず本能のままに動き、エステルの頬に、お返しのキスをした。


 エステルは目をパチクリした。


「あ……あああ、えっと、ではでは、先程もいいましたが、また学院で」

「おう……ま、またな」


 お互いどもりながら、その日はそこで別れた。



お読み頂きありがとうございます。

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