修一編3
まただ。またあの夢だ。
『俺はお前なんか最初から好きじゃなかった。親分の孫じゃなきゃ、相手にもしなかった。婚約者してやったのも、好きだと言ったのも、全部親分への恩返しだ。でも、それも今日で終わり。本当に愛してる女が帰って来たからな。』
ミラはふと目を覚ます。目からは大粒の涙が溢れており、気分もとても沈んでいる。凄くリアルなこの夢は、あの女性に会った後から始まった。
この夢は何ともミラを傷つけ心を蝕む。そこに付け入ったのは偽の修一だった。ニセモノは常にミラを監視し、優しい声と笑顔で甘く囁く。そしてミラをハチミツの中に落とすかの如く、自我を埋もれさせていくのだ。
術に掛けられ10日、ミラは現実と夢の境目が曖昧になっていた。
トントン
ドアがノックされる。ミラは体を起こしぼんやりと扉を眺める。中に入って来たのは、線の細くて中性的な顔の優男。
「修一さん…。」
ミラは虚な目で彼を呼ぶ。修一さんと呼ばれた者は優しく微笑んで、近づいてくる。
「おはよう、ミラ。泣いていたの?」
男はミラの頬に流れた涙の筋を撫でる。
「分からないわ。泣いてたのかなぁ。」
「フフフ。大丈夫!またおまじないしてあげる!」
そう言って男はミラの額に手を当て、催眠術を掛けていく。ミラの視界は更にぼやけ、モヤが掛かる。
鈍くなった感情により辛さが薄らぐ。男はそっとミラを抱きしめ、唇にキスを落とす。
一見、優しく穏やかなキスだ。しかし本質は違う。ミラをどんどんハチミツに落とす為の行為だ。彼にとっては愛情でも何でもない。
何も感じない、考えられない頭でミラはある人を探す。ずっと探している。記憶の中のあの人は、とても優しい人だった。でも最後に会った時は…どうだっただろう。
時々思い出せる顔は、私に向けてくれた熱いあの視線だ。それを思い出すと頭が割れそうにガンガンする。
それを彼が治してくれる。すると痛みは消えるがまた深いモヤが掛かって辛くもある。一度出掛けた気もするが、よく覚えていない。
でもそんな事を気にしているとバレてしまうと、また消されてしまう。ハチミツに追いやられてしまう。私は消されたくないのに。




