接待
接待は2人で同時に行う。招待状を確認し席へ案内したら、本祭の開会式が始まるではお茶やお菓子を出してお話で間を繋ぐ。
季子は流石上流階級の人だ。顔だけでなく所作がとても美しい。お手伝いの使用人もとても優秀で、完璧な仕事ぶりだ。上手く会話を回し、深い内容も熟知している。その姿に派閥が違う来賓も関心せざるを得ない。
季子は既に社交界デビューもしており、良家の子女として有名らしい。接待に選ばれるだけあって、素晴らしい方だ。
一方ミラは、デビュー前。他派閥に関しては全く知識ゼロだ。この日の為に招待客名簿で顔と情報を把握し、その方の興味のある話ができる様に新聞や雑誌を読み漁った。
通学の時間を充てることが出来たミラは、緊張しながらも落ち着いて来賓を捌いていく。しかし所詮は付け焼き刃の知識。深い話はできず、分からない話はニコニコしながら聞き役に徹する。時々疑問に思った事を質問する程度しか出来ない。
(次の来賓の方がみえる前に、茶葉を替えなきゃ。)
ミラが給湯室で準備していると、ある事に気づく。
(あっ!茶葉とお菓子が明らかに足りない!!そんな!朝はあったのに!)
ミラの頭が真っ白になる。
(どうしよう…。)
それは紛れも無く、誰かによる妨害だった。サーっと血の気が引くミラ。顔は真っ青だ。
(ケ、ケイゴ、ひとまずケイゴに連絡…ダメだ!ケイゴは仕事中。電話に出られない。ナオは…巻き込みたく無い。こうなったらあの手しかない。)
ミラはいよいよ覚悟する。それは、今までミラを隠し安全で自由に過ごせる様にと、配慮してくれた両親や皆んなを裏切る行為であったが、それでも戦おうと思った。ミラはカバンからある物を取り出し、胸のポケットに入れた。
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「ようこそお越しくださいました。招待状を拝見できますでしょうか。」
ミラは丁寧にお辞儀をした後、背筋をスッと伸ばし笑顔でお客様に対峙した。するとその客人はハッとした顔をしたあと訝しげに言う。
「あの…。」
ミラは胸のポケットからハンカチの端を三角に出してわざと家紋の刺繍が見える様にした。
「はい、何でございましょうか。」
「いや、あの、その…KAHO様のご親族の方ですか?」
「はい、カホウ ミラと申します。以後お見知り置きを。」
その言葉を聞いて、驚いたのはお客様だけではない。少し離れて隣に立っていた五十嵐チームもだ。
お客様は固まっている。
「すみません、こちらの手違いでお茶とお菓子が足りなくなってしまい、買って参りますので、あちらでお待ち下さい。」
固まっている来賓を、ミラは笑顔で案内し部屋を出て行こうとする。そこへ李子が恐る恐る声をかける。
「ハナミネさんは、KAHO家のご親族なんですか?」
「はい、そうです。」
そう言ってニッコリ笑って出て行った。
(確かにカホウとも読める。音読みと訓読みの違い。)
ミラは急いでバッグの中身を出して購買部へ走る。まだお店はやっていないが、お願いしてみる。
「すみません!接客班なんですが、お茶とお茶菓子が足りなくなってしまいました。申し訳ありませんが全部ください!!」
「え!困るわ!」
「でも、来賓分が足りないんです!お願いします!」
「そっか、それは困るわね。分かったわ。」
そう言ってお茶とお饅頭を買い占めバッグに入るだけ詰める。残りはあとで届けてくれるそうだ。
ミラは応接ルームに急いで帰って、先程の人に買ったお茶とお茶菓子を出す。
「有り合わせで申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
まだカチコチである。そうして十数組相手にしていた時、背後から声を掛けられた。
「ハナミネさん、何かありましたか?」
バックヤードから聞き馴染みのある声が聞こえて、一気に安心した。




