揺るがすもの3
次の日の学校
「ミラー!ちょっと来て!」
「おはよ!」
「うん、おはよう。ちょっと来て!」
昇降口でミラを待っていたナオは、挨拶もそうそうにミラを教室とは別の方へ引っ張って行く。
「何?どうしたの?」
「説明は後、ひとまず急いで!!」
職員室近くの階段の陰に押し込まれる。
「何?」
「シー!」
「???」
ナオが声を絞って話そうとすると、後ろから誰かに声を掛けられる。
「君達、どうしたんですか?」
「!!」
ナオはミラを隠しながら、ギコギコ言いそうなくらいぎこちなくゆっくり振り返ると、ケイゴか不思議なそうな顔で見ている。
「?どうしたんですか?」
ナオは一度逡巡するが、思い切って聞いてみようと思う。
「…ケイゴ先生は、誰の味方ですか?」
唐突な質問が来る。後ろにはガッツリ隠された、多分ミラ。
「うーん。教員としては、皆さんの味方です。」
ナオはそんな事を聞いてるんじゃ無いという表情をしている。
「派閥はKAHO家です。」
「なら、私の親友も守ってくれますか?」
「!!…勿論です。」
ケイゴは優しい笑顔を深める。
「教室に3年生が来ています。ミラを待って。多分危害を加えようとしています。だから、朝礼の時間になるまで隠れた方がいいと思って。」
ケイゴは後ろのミラに視線をやる。
「華峯さんを守ってくれたんですね。」
「そうです。」
「ここは見つかり難いですが、風が当たります。まだ朝礼まであるので体を冷やしてはいけません。理事長室に行きましょう。きっと力になってくれます。」
「…。」
ナオは答えない。
「…そんな事をすると、ミラが逆恨みされるかもしれません。」
「僕がさせません。ひとまずいきますよ。」
不安気なナオは仕方なくミラと一緒に理事長室へ行く。
******
コンコンコン
「どうぞ。」
「理事長、失礼します。」
「どうしたの?ケイゴ君。…ナオコにミラちゃん?」
「理事長が華峯さんを接待役にお選びになったから、華峯さんが嫌がらせに遭っています。」
ケイゴは厳しい非難の目を不躾にも理事長に向ける。それを見て理事長は冷や汗をかいている。
「お祖父様、ミラは私の親友なんです!ミラを助けて下さい!」
(お祖父様?)
ミラは頭を捻る。その様を見てナオは自分の身分を明かしていない事に気がついた。
「私、理事長の親戚筋なの。だから桜華学園に入ったの。」
(だから外部生なのに学園に詳しかったのね。)
「ミラちゃん、嫌がらせに遭ってるの?」
その問いにナオが答える。
「昨日はミラの教科書が水の張ったバケツに投げ込まれてたし、今日は朝から3年が教室に来てミラを探してた。きっともっとエスカレートするわ。」
「…そんな!ミラちゃんごめんよ!そんなつもりはなかったんだ。私の考えが浅くてすまない。」
ケイゴはずっと理事長を睨み続けている。ナオは助けてくれといった表情だ。
「理事長先生、私は接待役に選んで頂いてとっても嬉しく思っております。ですから、このまま接待役を続けさせてはくれませんか?」
ナオとケイゴは物言いたげな顔で、理事長は申し訳なさと安堵が混じった複雑な表情だ。
「理事長、華峯さんがやりたいと思っている以上、無理に下すのは良くないと思います。その代わり、熱りが冷めるまで授業はリモートで受けさせるのはどうでしょうか。学園祭の準備は大学部ですから、彼らに守ってもらいましょう。」
「成程。そううよう。早速今日からリモートにしよう。ケイゴ君、対応してくれますか?」
「はい、承知ました。」
ナオは心から安心した顔をしました。




