ケイゴから見たレナという人
初めて会ったのは高一の時。パーティーで社交デビューした日だった。招待客の中にKAHO傘下の九条家がおり、そのご令嬢は一つ年上。重要なら取引先で挨拶は必須。年も近いから将来ミラを支える立場になるかもしれない。その人物を見極める事も、ケイゴの仕事の一つであった。
挨拶をしたレナは、とても美しかった。美人であるのは噂通りだった。しかし見た目だけではミラの力にはならない。ある程度会社の未来を考えて動け、人望も厚くなければ。
しかし挨拶後の彼女はただの女だった。
(九条家は違ったな。)
「…。僕はこのパーティーで人脈を広げて来る様に言われております。レナお嬢様が会社に全く関心が無いのなら、お話しすることはありません。失礼します。」
そう辛辣な言葉を吐いて置き去りにした。こんなのに時間を使う余裕は無い。ケイゴはどんどん挨拶をし、将来ミラと仕事が出来そうな人物を選別していく。
するとまたあのご令嬢が話し掛けてくる。
「ケイゴ様、私の考える会社の今後の展望をお話し致しますわ。」
(さっきは全く会社に目を向けて居ない様子だったが、何かあるのか?一応聞いておこう。)
「是非聞かせて下さい。」
再びソファーまでエスコートする。
「我が社は学用品を下ろしている会社です。それから出版社ももっております。更なる発展の為には、新たな分野のへの進出が大切だと思います。」
(まるで取って付けた様な話だな。)
「新たな分野とは?」
「えーっとー、それはー…。」
やはり時間と労力の無駄だった。
「どうやら九条家は今後迷走しそうですね。僕は顔だけのご令嬢には興味がありませんので。失礼します。」
再び辛辣な言葉を吐いてその場を去る。九条家との関係を悪くするのは良く無いが、時間を無駄にされたイライラをぶつけてしまった。
(やってしまった…。これは怒られるな。はー。)
***
それからしばらくしてもお叱りが無かった。それよりも九条のお嬢様が話掛けて来る様になり、煩わしさを感じていた。しかし、だんだん仕事の話が出来る様になって居るのに気づいた。
「今、お父様のお仕事を少しだけですけど手伝わせていただいているの。ケイゴ様に『顔だけ』と言われない様に!」
そう言って笑った彼女は、以前より魅力的に見えた。
「その節は失礼しました。」
「いいのよ。ケイゴ様の言う通り、以前の私は顔だけだったの。今仕事を教えてもらってて、本当に楽しいの。あっ!」
レナが段差を踏み外す。咄嗟にケイゴは体を引き寄せ支える。抱きしめた形になって。
「大丈夫ですか?先輩。」
「は、はい。」
真っ赤になったレナと見つめ合った。その目に熱を感じた。それは自分にいつも向けられるミラの瞳と同じ熱だ。きっとケイゴも同じ瞳をミラに向けている。だから他の人から向けられるのは良く無いと自覚していた。
憧れの視線なら良い。しかし、恋愛の視線は困る。ケイゴはいつも気をつけていた。恋がエスカレートしてミラに危害を加えられるのを避ける為に。特に自分と年齢の近い者は、ミラにも手を出されやすい。だからパーティーでは紳士に振る舞うが、学校では必要最低限の人物とのやり取りにしていた。それなのに。
(しまった…。)
それ以来レナはケイゴの腕に絡みつく様になってしまった。もし無理に振り払えば、それが回り回ってミラに行くかもしれない。ケイゴは静観する事にした。でもそれがいけなかった。ケイゴを取られたと勘違いしたケイゴファンが、あのストーカー事件を引き起こす事に繋がったからだ。
***
ストーカーに刺されてしばらく休学したケイゴ。復学した時には、既に事件の動揺は残って無かった。
久しぶりにレナに会ったケイゴ。レナはまたケイゴの腕に絡みつこうとする。
「九条先輩、また同じ様な事があるといけませんから、腕を組むのはやめて下さい。」
「ねぇケイゴ様、私が女避けになりますから、どうかおそばにおいて下さい。私も男避けになるし。」
「ですがまた同じ様な事があったら、今度は先輩が危ないかもしれないんですよ。」
「そうかもしれないけど、それでも役に立ちたいの。」
「でも…。」
「お願い!」
「…。(ミラに目が行くよりは。)」
ケイゴは無言で返した。それをレナは承知と受け取った。
(俺も大概酷い人間だな。)




