レナという人2
ケイゴがストーカー被害に遭った。腹部を刺されて入院したと会社経由で父から聞かされた。お見舞いに行くとケイゴが出迎えてくれた。
「来てくださって、ありがとうございます。」
「いいのよ。私達、付き合ってる様なもんじゃ無い!」
「…。僕は付き合ってるつもりはありません。すみません。僕の態度がそうさせてしまったのなら、謝ります。すみません。」
「私達、付き合って無いの…?」
「はい。僕はそんなつもりはありません。すみません。」
「…。貴方はまだ私を見てくれないのね。」
「…今日はお帰りください。」
「…。」
***
「お嬢様、お見舞いは如何でしたか?」
「…。私、ケイゴ様と付き合ってるつもりだったの。でも、それは勘違いだったみたいで…。」
自分で言っていて涙が溢れてしまった。初めての失恋。今まで何も考えず振っていたのに、いざ自分の番になると、こんなに辛かったのかと思う。
「嫌われてしまったのですか?」
「…付き合って無いと言われたわ。」
「お嬢様、嫌われて無いのなら、他の関係を築く事ができますでしょ?」
「…。他の関係?」
「はい。例え好きな方でも、お互いに惹かれ合わなければ付き合えません。それなら惹かれ合う様に頑張るか、他の関係を築けば良いのです。友人でも仕事のパートナーでも。時には恋敵の友人になるなんて立ち位置も存在します。諦めるかどうかは、お嬢様次第です。」
「…。」
「ただ大事なのは、ちゃんと納得する事です。亜月様に好かれようが嫌われようが、レナ様と当事者の方々がその立ち位置に納得なさらなければ、それは間違った立ち位置です。そして、間違った立ち位置になりそうな時は、いよいよ引く時だと思います。どれ程辛くても、そこは引くべき時期というものなのです。その時が来るまでは、私は足掻いても良いと思います。」
「ばぁや…。」
「亜月様は聡いお方と伺っております。お嬢様を悪い様にはなさらないでしょう。」
ばぁやはいつも私を諭してくれる。皆んなにチヤホヤされて鼻かが高くなりそうな私をいつも心配し、ちゃんとへし折ってくれる。そんなばぁやの存在が煙たい時もあった。でも、本当の愛情はそこなのだと、思春期を抜けた私は気づく事ができた。




