学園祭の準備2
ミラのカーディガンは大人の男には小さい。羽織れる訳もなく、膝にかけて汚すのも困る。かと言ってすぐに返してはミラに申し訳無い。うーんと話を右から左へ受け流しているうちに、ミラが腕を軽くさすっている事に気づく。
(あ、貸したは良いものの、自分が寒くなってなってきてるな。クーラーが良く効いてるからな。貸すなよ寒がりのくせに。)
「お嬢、カーディガンありがとうございました。俺は大丈夫になったので、お返しします。」
「でもケイゴ、さっき顔が赤かったし、風邪気味なんでしょ?まだ掛けてていいよ?」
「いえ、お嬢こそ、クーラーで寒くなってきてるでしょ?鳥肌立ってますよ。」
実はさっき座る時に、ケイゴが隅の席を促したのは、他人を隣に座らせたくない独占欲の他に、クーラーの直風が当たらない様にとの配慮もあった。
「でもー…。」
「ミラちゃん、俺がケイゴにジャケット貸すから、ミラちゃんは体を冷やさない様にカーディガン着ときなよ。サイズもその方が合うだろうし。」
「そっか。ごめんね、こんな小さいの渡しちゃって!荒木さんからお借りして?」
ケイゴはミラに微笑む。ミラはその表情を了解と受け取り、話し合いに戻る。ミラの目を盗みケイゴは荒木から渡されたジャケットを投げ返す。「いらん!」「何でだよー!」と目で会話している。
ミラ以外は話し合いをしながらその2人のやり取りを目撃する。ゼミ仲間にとってはいつもの事だが、藤ノ宮にとっては完璧紳士だと思っていたケイゴのキャラの違いに驚いていた。
藤ノ宮は隣の斎藤に耳打ちする。
「あの、俺の知ってるケイゴ先生とちょっとイメージ違うんですが…。」
「そうか?俺たちの前ではいつもあんな感じだよ。冷たくあしらうような。そのクールさが女子ウケに繋がっているらしい。みんなに平等に冷たいのが良いんだと。完璧なのに誰のものにもならないのが良いらしいけど、実際は昔からミラちゃんのものだったみたいだね。」
「へー。」
「このチームに呼ばれたって事は、系列の中で藤ノ宮君は優秀なんだね。」
「いえ、いえ。そんな事は。」
「亜月はね、ずっと本社の重役の息子という話で、高等部時代から有名だったんだ。いつも冷静で的確な思考をしてた。実は社長の隠し子なんて噂もあった。先日ミラちゃんを連れてきた時、社長子息では無い事が分かって、ミラちゃんが将来俺らのトップになる的な話をされてさ、こっちが本社の社長令嬢かと思ったら、実際は会長のお孫様だったなんてな。亜月はずっとミラちゃんの力になりそうな奴らを探して、いつの間にか集められてたのが、このゼミ生だ。俺たちは皆んなそれぞれグループ会社のトップの子供だからな。そこに藤ノ宮君だ。君がやる気なら、将来約束された様なもんだよ。」
「…。」
藤ノ宮はすごい話に巻き込まれてしまったと思った。次男の藤ノ宮は会社を継がない。兄に遣われるのも嫌悪しているくらい仲が良く無い。だから他の事で身を立てようとしていたのに。
「ちょっとそこー!話聞いてた?」
九条が睨んでいる。
「あー!九条さんごめんね、俺が私語をしてしまった。」
「もう、斎藤君も考えてよねー。それで、コスプレのコンセプトだけど、回によって変えるのはどう?」
と言う事で、チームによってコンセプトを変える事になった。




