パーティーの最中のプチ事件
会場についたミラと樹。ミラは本来全ての企業を束ねる総括の孫娘の為、最初から参加する必要は無い。しかし今まで『総帥の孫娘』という立場は隠し、役員の娘として出席している為、今回もその身分で出る。
因みに今回のパーティーは、当主と子息令嬢とは会場が別れており、ミラは初めて会う人ばかりだった。一方樹は、自身の会社の役員の子息令嬢と顔見知りな為、知り合いをいそいそと紹介してくれる。
主催者が現れるまでは、色々な人と挨拶を交わし、交友を広げなければならないと、ミラは気合いを入れる。
「樹様、ご無沙汰しております。お会い出来て光栄です。」
美しい令嬢がイケメンを連れて声を掛けてくる。
「ミエコ嬢、ご無沙汰しております。またお会い出来て光栄です。」
樹は手の甲へ挨拶のキスをし、男性の方とは握手をした。
(うちの副社長の娘と息子さんだ。)と、樹は耳打ちしてくれる。
樹に他意は無いが、耳元で囁かれると何と無くむず痒い。ケイゴにも、『お嬢は耳が弱いですね』と何回も言われている。
「こちらのお嬢さんは?」
子息が聞く。
「こちら、最近うちと海外事業の案件で業務提携をする事になった会社の役員の娘さんだ。僕の幼馴染でもある。」
「ミラと申します。以後お見知り置き下されば光栄です。」
ミラが軽く挨拶する。
子息令嬢はミラを値踏みする様な目で見ている。ミラの挨拶に対し、手の甲へのキスもしない。完全に下に見られている。
しかしミラは、そんな不躾な視線や態度を気にも留めず、朗らかに笑顔を作る。普段からケイゴ関連で様々な事態に晒されているからだろう、余裕の笑みである。
その態度が二人には不愉快だったらしく、ミラを一人にする作戦か、樹を攫って行ってしまった。
手持ち無沙汰になったミラは、会場に設置された美味しそうな料理に吸い寄せられた。
普通、パーティーに供もおらず一人で佇んでいれば声を掛けられそうなものだが、ミラは会社を総括している人の孫。
しかもその総括している人である親分は、今は社長達を雇いまったり暮らしている。ミラの事を知っているのは、せいぜい家に住んでいる強面の人達くらいで、多くの人は『どこかの系列会社の役員の娘』程度にしか思っていない。
しかも挨拶回りをしないミラは、印象に残るはずがない。残るとすれば、ケイゴの方だろう。そして、イケメンを従える不釣り合いな娘くらいの存在なのだ。だから、大人達はどこの娘とも分からない女にわざわざ声を掛ける訳も無く、ともすればその子息令嬢が歯牙にも掛けないのは当然である。
それよりは、美しい娘や立場のある者に挨拶した方がよっぽど建設的だろう。
しかし稀に、丁寧に育てられた瑞々しいしい桃よりも、自生した小ぶりの甘くもない桃が良いという残念な感性の持ち主がいる。その代表がケイゴだろう。しかし、そういった特殊趣味の輩は、意外と色々な場所に発生するらしい。
「お嬢さん、良い食べっぷりですね!」
声の方を見ると、見るからに自己愛の強そうな男性が立っている。そんなに暑いのか、ジャケットは脱ぎ、ワイシャツのボタンも4つ開けている。
第一印象は、『某ネズミの国に住まう、ふよふよ金髪のガタイ良い当て馬的存在の男』を思い起こすと言えば伝わるだろうか。まぁ、実際に金髪ロン毛ではないのだが。
(ボタンいらんやろ。)
そんな事を思いながら、ミラは声の主を振り返ると、男が発する。
「どの料理がお勧めですか?」
「そうですねぇ、二ツ星ホテルだけあってどれも美味しいですが、私は特にこのカルパッチョとオマール海老の香草焼きが気に入りました。海の幸がとても新鮮で、お勧めです!それと、こちらのカリフラワーのスープも、丁寧に裏漉しされていて舌触りが良いし、ローストビーフも卵黄のソースがとろーっとしてまたーーー」
「あっはっはっはっ。面白いお嬢さんだ!ここのご飯が気に入ったんだね!?」
「はい、とっても美味しいです!」
「ふーん。お嬢さん、お名前は?」
値踏みをする様な、いやらしい様な目つきで見つめてくる。
「人に名前を聞く時は、先に名乗るものでは?」
「はは!確かにそうだ。俺は四葉レイ。MKWの社長の息子だ。」
そう言いながらミラの手にキスを落とす。
「それでお嬢さんは?」
「系列会社の役員の娘ミラと申します。以後お見知り置き頂ければ幸いでございます。」
ミラは実質部下である男に礼を執る。因みに先ほどの兄妹にも、ちゃんとした挨拶をしていた。そのせいもあって、見下した態度を取られたのだが。
「丁寧にありがとう。でも所属は明らかにしないんだね。うん、いいよ、いいよ。関連会社だからといって、誰これ構わず身分を教える必要は無い。」
レイは「いいよいいよー」と軽い感じである。
「兄上?」
そこに何と無く聞きおぼえのある声が聞こえる。




