マジギレ
ケイゴは特段の笑顔で樹に向き合う。
「お客様、お嬢への不埒な真似はおやめ下さい。」
樹も楽しそうな笑顔で返す。
「やっと出てきた。さっきから睨んでたね。君は?」
「亜月ケイゴです。ミラと付き合っています。」
「″ミラ″か。君はミラの彼氏として来た訳だ。でも残念。ミラは僕と結婚するしか無いんだよ。海外進出はうちとの提携が無ければ無理だからねぇ。」
「樹様は良いのですか?好きでもない相手と結婚させられるのは。見たところ、女性から好意を持たれそうに見えますが。」
「僕を心配してくれるんだ!ありがとう。でもー、僕はミラを愛しているから、心配無用だよ。」
ミラとケイゴはビックリ。力の緩んだ隙に樹はミラの腰に手を回し引き戻す。ミラはまたバランスを崩し樹に抱き止められる。
樹はミラを優しく妖艶な顔で見下ろす。
「ねぇ、だから結婚しよう?」
顎に手を当てられ腰も抱かれている。逃げられない。
ミラは百面相している。(どうしよう!どうしよう!)
「お兄様、 少し考えさせて下さい。急に言われても何が何だか…。」
「あぁ、そうだね。君に悪い虫が付いてると思ったら少し焦ってしまったようだ。ごめんね。」
樹はミラを解放する。ケイゴはすかさずミラの手を取り部屋から連れ出しどんどん歩いていく。
「ケイゴ、ありがとう。びっくりしちゃったね!業務提携の話も結婚の話しも聞いてなかったし!」
ミラは誤魔化すように苦笑いで言うか、ケイゴは無言のままミラの部屋まで送ってくれた。と思ったら、そのまま入ってミラをベッドに投げる。ミラが「きゃっ」と声を出すのもお構いなしに、押し倒されてしまった。
そしてそのままの勢いでケイゴはミラにキスをする。ミラはびっくりしたが、だんだんと溶けてしまう。息も絶え絶えになりミラの全身が溶けかけた頃、ケイゴは唇を離す。
「とろけんなバーカ。」
「えっ?」
ケイゴらしからぬ物言いにびっくりしてしまう。いつもケイゴは余裕のある笑顔でミラを翻弄する。怒っても敬語で責められるだけで、こんな乱暴な言葉遣いは聞いた事が無い。
「ケイゴ怒ってるの?」
「当たり前だろ!好きな女に抱きつかれてキスまでされやがって!」
(こんな怒ったケイゴ、初めてみた。)
「お兄様のハグは挨拶だし、キスじゃなくて事故でぶつかっただけだよ。」
尚もケイゴは怖い顔をしている。
「あんな事言ってたけど、アイツはミラを女として見てた!」
「そんな事ないって。政略結婚を受け入れただけ。その挨拶に来ただけだよ。」
「完全に俺を挑発してた!」
ケイゴには珍しく、ずっと語気が強い。
「ケイゴ怒ってるの?」
「あぁ?怒るだろ普通!自分の女が言い寄られて、キスまでされて!更に怒れるのは、お前だミラ!」
また唇が降りてくる。(「お前」なんて言われたの初めて。いつもはどんなに怒ってても、「君」だった。)
「私に怒ってるの?」
「当たり前だ!何で抵抗しないんだよ!何で彼氏いるって言わないんだ!俺ら付き合ってるんじゃないの?俺は何なの?ミラにとって。」
「………。」
「一番ムカつくのは、嫉妬に狂ってミラに余裕ない姿見せてる俺だ…。ダサ、俺。」
少し冷静になったのか、ケイゴは自傷的な笑顔をみせる。
「ケイゴごめんなさい。いつもケイゴは私を大切にしてくれてるのに、私はちゃんと言葉にして無かったね。私はケイゴを愛してる。お兄様は本当にお兄ちゃんとしか思えないし、業務提携のことはあるけど、私がこれからもずっと一緒にいたいのはケイゴだよ。」
「俺ってかっこわる。」
「そんな事ないよ。どんな顔も私好みだし、こうやって取り乱してくれるのも、嬉しいよ。」
ミラは微笑む。ケイゴも少しバツの悪そうな顔でしばらく見つめ合う。
「…したいです。」
ミラは意を決した様に言う。耳まで真っ赤になっている。
ケイゴはびっくりするがだんだん表情が柔らかくなって、少しイタズラっぽい、でも嬉しそうな顔になる。
「君にもそういう気持ちあったんだね。煽らないでくれますか。」
「今かな?と思って。」
「意外と策略家なんですね。知りませんでした。……勇気出してくれたんでしょ?俺の為に。ありがとう。それから、そう言うのはもっとオトナになってからしましょう。焦らなくて良いんですよ。」
「機嫌直った?」




