恋人になりましょう。
ミラの部屋
手当の後部屋でぼーっとしていたミラは、ノックをされて我に返る。扉を開けるとケイゴが何か言いたげに立っている。
「どうぞ。」
ミラはベッドに座るが、ケイゴは入り口付近で立ち止まっている。ケイゴは入室してから一言も喋らない。しばらく沈黙が続いた。
「怪我はどう?」
ミラが沈黙に耐えかねて尋ねる。
「お嬢の方が重症ですよ。お嬢こそ大丈夫ですか?
」
ケイゴは傷ついた様な顔でミラの包帯を見つめる。
「琢磨先生(お抱えの医者)のお陰で痛くないわ。いい腕よね、若いのに。」
ミラは冗談めかして言う。しかし、また沈黙が流れる。
「お嬢、俺のせいですみませんでした…。」
「ケイゴが助けに来てくれなかったら、どうなってたか分からないもん。助けられたのは私の方。」
「俺はそんな言葉を言ってもらえる資格がありません。お嬢、俺のことをちゃんと罰して下さい。」
「…ねぇ、ケイゴ。」
「…はい。」
「私たちって何?」
「何…とは?」
「私たちの関係って何?」
「主従です。」
「ぶっぶー。違います。」
ケイゴは訳が分からないといった顔をする。
「私たちって一応カタギじゃん?ここに居候してるかたちをとってる。だったら、私たちの関係って何?」
「えっとー…俺はお嬢が好きです。」
「フムフム。そうだね。私もケイゴが好きです。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
(何だ?この事務的な感情の報告会は…)ケイゴは苦笑いになる。
「でも私たちはさぁ、付き合う約束はしてないよね。」
「…そうですね。そういうのは親分的に無理だろうと思い、避けていました。」
「うん。そうなのだよ。反対されるだろうし、ケイゴが消されても困るから、私もさ避けてた。」
微妙な空気が流れ、苦笑いしてしまう二人。
「でもね、今日思ったの。ケイゴが来てくれて助かったって思った時、抱きしめて欲しくて。でも私たちにはそう言うのをする口実がないなって。だから、こういう場面で抱きついていいのか分かんなくて…。」
ケイゴは黙って聞いている。
「私はね、臆病だから口実がないと動けないんだよ。だからね、私にケイゴに甘えても良い約束をくれませんか?」
「俺は…お嬢に相応しくないと思うー」
「そうなことー」
ミラはケイゴの言葉に被せるが、ケイゴも追うように言葉を被せる。
「でも、お嬢が俺でいいって言うなら、一生大切にします。俺と付き合ってください。」
ずっと視線を合わせなかったケイゴが、ミラの瞳を真っ直ぐ見つめて言う。
「はい。」
ミラも真っ直ぐ見つめて返事をする。そしてケイゴが優しくミラを包んだ。
口実が無いと動けない男、それがケイゴ。実はそんな一面もあったのね。