いつも助けてくれるキミ
次の日、ミラはまた進路相談室に呼び出されていた。今日も真綾に服を脱ぐように言われる。ミラは抵抗するも、「ケイゴがどうなっても良いのか」の一言で、従わざるを得なくなる。
ネクタイを外しワイシャツのボタンに手をかける。一つずつ外すと前がはだける。キャミを脱げば下着になってしまう。
「ゆっくり脱いで、まるでストリップショーね。いいわ、のってあげる。私が手伝ってあげるわ。」
真綾はなぶる様に言い、ミラの服を剥がしていく。そして首や胸元を舐めた。急に痛くなったと思ったら、そこには紅くマークが付いていた。昨日もたくさん付けられた。
ミラは声も出さず泣く。昨日も泣いていた。
「あら、やだー。こんなに優しくしてあげてるのに、何が気に入らないの?もしかして、今度は下が寂しくなっちゃった?早く触って欲しくて泣いてるの?」
真綾がまたなぶる様に言う。ミラも何の涙か分からなくなっていた。
ドンドンドンッ
突然けたたましい音が鳴る。扉が叩かれたのだ。真綾とミラはびっくり。真綾はミラの口を塞いで、外へ声を掛ける。
「すみません。鍵を掛けていました。どうされましたか?すぐ開けます。」
「荻野先生、亜月です。」
「ケイゴ!どうしたの?」
「指導案でお聞きしたい事があります。開けてもらえますか?」
「分かったわ。切りがついたら職員室に行くから待っててね!」
「分かりました。」
(ケイゴ助けて!)
ずっと心で叫んでいたけど届かない。遠ざかって行く足音にミラは更に涙を流した。
「私はケイゴが呼んでるから…そうねぇ、丁度試したかった縄があるの。これで大人しくしてなさい。」
ドーーーン
ミラを縛り出したその時、再び音がする。しかし今度はドアを叩くなんて優しいものではなく、突き破ろうとしている激しい音。
「おい、ミラ居るんだろ!?おい真綾、それ以上ミラに触れてみろ!絶対許さないからな!!」
そう言っている間に扉が壊れた。真綾はケイゴを見てみるみる顔が青くなる。上半身が下着になっていたミラは背中を向けた。手を縛り上げられている。
「ミラ!」
扉が壊されるのと同時に、ケイゴが部屋へ入ってくる。そして落ちていたミラのシャツを背中に掛ける。同時に入って来た結城は、手早く真綾をねじ伏せた。
小刻みに震えているミラは、後ろを向いたまま。
「ミラ?」
ケイゴが優しく声を掛けるが反応が無い。結城は真綾を連れて行った。真綾はケイゴの顔があまりにも恐ろしかったのか、始終青ざめた顔で震えていた。
「ミラ?大丈夫?」
ケイゴはミラの手を解き、優しく向きを変えさせる。上半身には歯形やキスマークが無数についている。ミラは見られたく無かったとばかりに俯いている。ケイゴはそんな壊れそうなミラをそっと抱きしめた。ミラの瞳からまた涙が流れた。
助けられたミラは、暗い顔をしてずっと黙ってい
る。声を掛けても黙っているミラに寄り添って帰った。
***
ケイゴはミラを部屋まで送った後、親分の部屋に行った。先日に続き2回目だ。こんな事になって、親分は黙っているはずがない。消される覚悟をした。
「失礼します。」
部屋にはすでに幹部が集まっており、全員顔が険しい。
「申し訳ありません!」
部屋に入って早々に、おでこを床につけて謝る。
「言い訳は聞かない。お前、分かってるだろうなぁ。」
「…はい。覚悟は出来ています。」
「そうか、では早速。」
そう言いながら親分は刀をケイゴの首に当てる。そこから赤い血がサーっと流れる。
「言い残すことはないか?」
「最後にミラ様に私の気持ちを伝えたかったです。」
「ふっ、それは無理だな。」
親分はケイゴを見下ろしながら鼻で笑った。
「お願いします。」
ケイゴは歯を食い縛る。瞼の裏にはミラの笑顔が思い浮かぶ。
(あー最後にもう一回だけしっかり瞳をみたかったな。)
親分は刀に力を入れる。ケイゴの首から更に血が流れる。
トン!トン!トン!騒々しい音が廊下で鳴る。そして数秒後には、スパーン!?と音を立てて襖がひらかれる。一同はびっくりし外の様子を伺うと、そこには大粒のなみだを流したミラが立っていた。
「お嬢、どうかされましたか!?」
そう声を掛けた男の胸ぐらを掴み、「退け」とばかりに睨みつける。男が部屋へ通すと、首に突きつけられた刀の刃をミラは握る。すぐに赤い血が滴り出す。慌てたのは部屋住みだけではない。他人に非情な親分もだ。
「ミ、ミ、ミラ!?やめてくれ、血が出てる。」
親分も流石に孫の行動にビックリしている。ミラは親分を睨んだまま、手を離そうとしない。
「ミラ、今度のことは流石に感化出来ない。お前が傷つけられた。それも2回目。もう黙ってられない。あの女は当然だがケイゴも守れなかった責任は取ってもらう。」
「責任と言うなら、自分の身を守れなかった私自身にもあるわ。ケイゴ一人に背負わせないで。それに聞いたわ。一昨日もケイゴを殴ったんでしょ。肋骨にヒビが入ってるって。」
ミラの言葉を聞いて、親分の目が一瞬「ヤバッ」と開かれる。ミラは尚も刀を握ったまま、強い瞳をおじいちゃんに返す。
「お願いです。もうやめて下さい。」
ミラは美しい所作で頭を下げる。おじいちゃんは刀を引いた。それと同時にミラはハンカチでケイゴの首の怪我を抑える。咄嗟にケイゴは、そのハンカチと自分のハンカチをミラに握らせる。
「俺は大丈夫です。お嬢こそしっかり握って下さい!早く手当を!」
親分はその様子を見て部屋を去る。ミラとケイゴはすぐに手当される。ケイゴは大丈夫だがミラは余程強く握ったのか、少し傷が深い。数針縫うことになった。
ミラがわざわざ利き手である右手で握ったのは、親分に罪悪感を植え付け、早く刀を納めさせる為であった。