遅れた時間を取り戻せ10
次の日、突然の訪問者にミラは目を丸くする。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは…えっと、何で先生がうちに…?」
応接間にはケイゴとトラさんと一緒に、昨日デート(だったらしい)した塾講師がいた。
「俺が呼びました。取り敢えず座って下さい。」
そう言ってケイゴは自然な所作でミラをソファへエスコートする。ミラは戸惑いながらも座る。
「お嬢には話していませんでしたが、あの塾には裏の顔があります。」
「裏の顔?」
「はい。簡単に言うと、顔の良い講師を使って金持ちに取り入ることで、お金を得ていました。」
「うんとぉー、それは悪いことなの?」
「お小遣いをもらう程度ならまだしも、組織的に詐欺まがいの投資やネズミ講をしていて、KAHO傘下でも被害に合っている家がありました。その手口の一つが塾です。良家の娘に取り入り、お金を引き出したり、コネを使って会社に入り、どんどん被害者を増やしていく(そして不要になったお嬢様を欲の対象にしたり、ポイっと捨てる)。」
「えっ…でも、何人かデートに行ったって噂で聞いたよ?ナオだって。えっ…。ナオは恋人同士だからデートしたんだよね?」
「…おそらく、騙されてると思います。」
「そんな!すぐ知らせなきゃ!」
「大丈夫ですお嬢!既に手を打ってます。」
「そうなの?ありがとう。」
「因みに、来ていただいた木原君は俺が買収した人物です。」
「………は?」
「ですから、お嬢の安全の為に買収したんです。」
ミラは目をパチクリしながら木原を見る。
「はい、買収されました。」
木原は爽やかな笑顔で答えた。
「俺は元々あそこで働いてたんです。凄くいいバイトがあるって友達に誘われて。もう2年になります。…最初は知らなかったんです。カワイイ女の子とデートしてお小遣いが貰えてラッキーくらいの感覚で…。でも本格的にバイトに入る様になってから、もしかしたらヤバいことをしてるんじゃないかって思う時があって。でも抜け出せなかったんです。」
「被害がかなり拡大してまして、警察にも目をつけられてはいたんです。でも政財界も絡んでくる問題だから、迂闊には手が出せなくて。ただ、華峯家では対処寸前だったため、彼と交渉しました。ミラを守ってくれれば助けると。」
「はい、ですから華峯さんをターゲットにして、最低限デートをしました。」
「…そうでしたか。守ってくださっていたんですね、ありがとうございます。」
「騙していてすみません…。」
「…護られた側の私は感謝しかありません。そんな顔しないで下さい。」
ミラは木原にニコッと笑いかけ、ケイゴを見上げる。
「で、今後どうすればいいの?」
「既に対応していますので、お嬢はもう塾へは行けません。そして木原君も暫くはKAHO家で匿います。」
「いいんですか!?」
「あぁ。危ない橋を渡ったんだ。それくらいはさせてくれ。」
「ありがとうございます!」
それ以降の事はミラは知らない。でも大捕物があったのだろう。あんなに波に乗っていた塾が消し飛び、上層部は逮捕された。携わっていた下っ端アルバイト達も、一部は逮捕され、罪の意識で壊れそうになっていた者達には、どこかから手が差し伸べられたようだ。噂では、どこかの家のイケメンが、彼らを引き連れて新たなバイト先を斡旋したとか。
***
後日、ある塾にある人物が現れる。
「亜月様来てくださったんですね!」
「ええ。紹介した講師達はどうかなと思いまして。」
「新しい先生達はイケメンで授業も分かりやすいと評判で!」
「それなら良かったです。」
そこは華峯とゆかりのある家が経営する塾。今後とも仲良くしていきたい取引先であった。




