遅れた時間を取り戻せ9
車内でもミラは終始無言だ。
「こちらをどうぞ。」
ケイゴは水筒から紅茶を注いでミラへ渡す。フワッとアールグレイの香りが広がり心地よい。ミラはそれを一口する。
「美味しい…。」
「落ち着きましたか?」
「…うん。」
「クッキーもありますよ。」
そう言って個包装の可愛いクッキーを差し出す。カフェciel RoZeのものだ。因みにミラが食べたり使ったりする物の多くはciel RoZeとなっており、下着も夏休みのインターンの時のものだ。
ミラはクッキーをカリカリ食べているが、顔ははれない。
「お嬢は、デートをしたから浮気したと思ったんですか?」
「…もちろんそれもあるけど…ドキッとしてしまったから…。ケイゴを愛してるのに他の人にドキッとして許せない…。」
ミラは再び泣き出す。
「ごめんなさい。」
「つまり、俺以外とデートして俺以外にときめいたから、浮気したと。」
ミラは泣きながら頷く。
「…白状します。俺は以前、貴方のお母様の写真を拝見して、ドキドキしました。」
「えっ?」
ミラは驚いて顔を上げる。ケイゴは優しく微笑む。
「浮気でしょうか?」
「でもケイゴはお母さんと会ってないじゃん。」
「もし会っていたら、ずっとドキドキしてたかもしれません。」
「…それでも浮気じゃないと思う。」
「そうですね、俺もそうだと思います。例え一時ドキドキする事があったとしても、根本迄は動かない。それならそっと心にしまっておいて下さい。知ってしまうとヤキモチを妬いちゃいますから。」
照れくさそうな顔にミラも恥ずかしくなり赤面する。
「私が好きなのはケイゴだよ。」
「分かってますよ。だから今回の件は許します。」




