荒木のお店
前前回の続きです。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
VIPルームが空いたと店員が伝えに来たため、そちらに移動する。
そこは、先程のカフェ風とは違い、とてもシックで大人っぽく、正にデザイナーズルームといった感じ。気後れしてしまった。
その雰囲気に溶け込むケイゴと荒木。大人だからという訳では無い、『何か』でイケメン二人の魅力が倍増している。それに比べてミラは…。
(場違い半端ない…。)
ため息が出てしまう。
「どうぞお掛け下さい。」
エスコートしようとする荒木の手をケイゴが取っ捕まえて、「ありがとう」とキリキリした笑顔を向ける。
荒木は『面白いもん見た』という顔をして、「ごめん、ごめん」と如何にもわざとらしい。
ケイゴは、改めてミラの手を取りエスコートし、座ったミラの膝に膝掛けを、肩には自分の羽織っていたシャツを掛ける。
「えーっと…、寒く無いよ?」
ミラは首を傾げる。
「良いから、黙って掛けとけ。」
眉を寄せて放たれた言葉に、ミラは素直に従った。
それを見て荒木は、ケイゴの変わり様にびっくりしつつも、幸せなんだと思い嬉しくなった。
荒木はミラにそっと耳打ちする。
プルルルル
ケイゴのスマホが鳴る。
「ちょっと仕事の電話。荒木、ミラにそれ以上近づくなよ!」
言いながらケイゴが退室すると、荒木はミラの向かい側のソファーに座りながら、飲み物をくれる。
「ありがとうございます。」
「あいつさぁ、今まで彼女が居なかった訳ないと思うんだけど、一切そういう話しないんだよ。だから、彼女とは紹介された事一回も無かったんだ。」
ミラは驚きつつ、真綾先生も?と疑問に思いながら話を聞く。
「意外?」
「意外…では無いですが…。ケイゴは自分の事あまり話さないですし。」
「ですがっていうのは、何か気になってる?」
「あの…真綾先生については…。」
「あー。荻野真綾のこと?付き合ってる噂はあったよ。でも、実際はどうか分からん。よく教室に真綾先輩がケイゴを迎えに来たり、必死に話しかけながら帰ったりしてたのは知ってる。でも、正直一方的な感じで、付き合ってる様には見えなかったかな。」
「…。」
「何?安心した?」
荒木がイタズラな顔をする。
「教育実習で高等部に行ってるでしょ。」
「はい、うちのクラスに来てます。」
「あー。それで不安になっちゃった?」
「…。」
「あいつもまだまだだなぁー。彼女を不安がらせるなんて。まぁーでもアレかぁ。真綾先輩と付き合ってたとしてあんな感じなら、今の過保護っぷりは幻に近いな。ミラちゃんはさぁ、何でケイゴがシャツと膝掛けしたか意味分かってる?」
「意味?体が冷えない様にですよね。」
荒木はわざとらしく「オーマイガー!」と叫ぶ。
「多少あると思うよ。女の子は体冷やさない方がいいし。でもそっちじゃ無いよ、多分。」
「何ですか?」
「肩とか足が出てるでしょ?俺の視線を遮るためだよ。」
「?」
まだ分からないといった顔のミラ。
荒木は可哀想な親友を思い遣った。
「見せなくないんだよ。他の男に肩とか足とか。座るとどうしてもスカートが上がったりするし。つまり、ヤキモチだよ。」
その言葉に、ミラは耳まで真っ赤になる。荒木は伝わったことに嬉しくなる。そしてミラの反応で両思いなのが分かり安心した。
(まぁ、ケイゴに好かれて嫌な女はまず居ないか。)
不意に外が騒がしくなる。ノックをして入って来たのはケイゴと…知らない男の人。
「荒木、紫苑も呼んだのか。」
「おー来たか!会いたがってたからな。ミラちゃん、こいつは紫苑。高校からの付き合い。紫苑、ミラちゃんだ。」
「華峯ミラです。ケイゴにはお世話になってます。」
「いや、お世話はしてるが、こいつに言う挨拶じゃないだろ。」
「はは。初めまして紫苑です。」
紫苑は自然にミラの手を取って、甲にキスする。
ケイゴは怒る様子がない。
「何で紫苑には怒らないんだよ!!」
荒木がすかさずツッコむ。
「紫苑はハーフだからな、挨拶だろ。お前のは下心。」
「嫌、オレも挨拶だからー!」
三人が楽しそうで、ミラは嬉しくなる。折角の集いだ。お邪魔する訳にはいかない。
「私、そろそろ帰ろうかな。」
「じゃぁ俺も。」
ケイゴが立ち上がろうとすると、ミラはそれを阻止する。
「折角集まったんだから、暫くゆっくりしなよ。私は一人で帰れるから。」
「ミラを一人に出来ないだろ。」
「でも、紫苑さんも今来て下さったんだよ。しかもケイゴの為に。」
「だとしても、ミラを一人で帰せない。」
「電車で帰れるから。」
言い合っていると、紫苑が発言する。
「じゃぁ、一旦ミラちゃんを送って、嫌じゃ無ければ戻ってくる?」
「それ、ナイスアイディアですね!!」
「勝手に決めるな❗️戻って来ないからな。」
***
ミラを送った後、ケイゴは男子会で今夜はお泊まりをした。




