遅れた時間を取り戻せ6
「今日の授業も分かりやすかったね!」
「う、うん!そうだね。」
「ナオ、どうしたの?なんかソワソワしてる。」
「なんでもない!私、少し先生に質問してから帰るから、ミラは先に帰ってて!」
「そうなの?分かった。じゃぁまたね。」
「うん。バイバイ!」
(よし、先生とこ行こう。)
***事務室
「先生、質問がありまして。」
そこには何人かの講師がいる。その中から、約束している講師が歩きながら返事をする。
「はい。僕が聞こう。こちらへ。」
講師はナオをエスコートし、裏口からそのまま車に乗せる。
「ありがとう、来てくれて。」
「あ…いえ。」
「君とデートができるなんて、嬉しいよ。」
「わ、私もです。」
「そっか。ありがとう。ねぇ、ナオちゃんはこのまま塾に通わない?」
「えっ?」
「だって、なかなか会えなくなるでしょ。一コマだけでも通ってくれたら、毎週絶対会えるのにって思ったんだ。僕は授業の資料とかも作らないといけなくて、なかなか忙しいからデートが出来ないかもしれないし。」
「そうなんですね。…父に言ってみます。」
「うん。是非!わー嬉しいなぁ!」
ナオは照れながらニコニコしている。
「ナオちゃん、どこか行きたい所はある?」
「えーっと、よく分からなくて。」
「じゃぁ、僕がナオちゃんと行きたい所にするね。行き先はお楽しみ。」
「はい!」
着いた先は『クラゲ水族館』。そこはクラゲのみが展示してあり、綺麗な電飾で照らされている。
「わー綺麗!」
「気に入ってくれた?」
「はい!素敵です!フワーって優雅に泳いでて楽しそう!」
「クラゲはね、自分では泳げないんだ。水の動きに漂ってるだけ。だから、水槽内には緩やかな水の流れがあるんだよ。」
「へー。だから同じ動かし方が出来るんですね。」
「そう。」
「先生は物知りですね。さすがです!」
すると講師が急にナオの唇に一本指を当てる。シーの指だ。
「ナオちゃん、今はデート中なんだから、僕の事はユウって呼んで。」
「ユウ…さん。」
「うん。ありがとう!」
その後も美味しいご飯を食べて楽しく過ごした。
***ナオの自宅
「お父様、今短期の塾に行かせていただいてるでしょ?そこに定期的に通いたいの。」
「うーん。家庭教師がいるのに塾に通う必要があるのか?」
「塾が気に入ったから、家庭教師を辞めて塾に行きたいわ。ミラも通うって言っていましたし。」
「…ミラ嬢がそう言うなら。」
「ありがとう!お父様!」
(今からミラに聞かなちゃ!)
***翌日の塾にて
その日は少し早く塾に着いた。少し予習をしようとしていると、ある人物が声をかけてくる。
「ハナミネさん?」
塾長の柳田先生だ。彼は色気のあるイケメンだが、どこか冷たさの漂う雰囲気を持っている。全てを服従させる様な威厳とも取れるものだ。
「…こんにちは。」
「こんにちは。ちょっと手伝ってもらってもいい?」
「はい、大丈夫です。」
柳田はミラを連れて資料室へ入る。
「本棚の本を取ってくれる?」
柳田はミラの背後にある書棚を指す。その指に誘われ、ミラは視線の先を探す。
「この本ですか?」
「それじゃなくて…。」
柳田が近づいて来てミラの後ろから手を伸ばして本を取る。ミラは柳田と本棚に挟まれた状態である。背中に柳田の厚い胸板を感じる。まるでバックハグされているみたいだ。
「あ、コレですね。」
「ねぇ、ミラちゃん。」
「えっ…。」
ミラの顔のすぐそばに、柳田のネットリとした視線を感じる。ミラは肩をすくめ硬直する。
「ふふ。そんなに硬くならなくてもいいのに。」
妖艶な微笑みを浮かべながらミラの両肩を撫で下ろす。
「先生がイケメンなので緊張しちゃいました!」
ミラはワザと明るく幼い感じで答えながら振り向くと、あまりにも柳田の顔が近くにあり驚く。
「そっか。ミラちゃんに褒められるのは嬉しいな。」
「あははー。」
ミラは無理やり笑顔を作る。
バーン!!!
急に扉があき、びっくりしてそちらをみる2人。
「あっ!すみません。ミラちゃん!ちょうど良かった。少しお借りしても良いですか?」
「あぁ、もちろん。」
木原はミラの手を引き資料室を出る。扉が閉まる瞬間、柳田とアイコンタクトをし合う。しばらく歩いて資料室から離れるとサッと近づいてきて何かを小声で呟く。
そして言うが早いか、足早に職員室へ消えて行った。ミラはその場に立ち尽くして言葉の意味を考えた。
「俺以外信用すんな。それと気をつけて。」
(どう言う意味なんだろう…。)




