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ワルい男に誘惑されてます。〜天然系お嬢はイケメン893?に護られて、ドキドキな青春を過ごします。  作者: 華峯ミラ


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破れた心6

「帰国出来ることになりました!」


ミラは目の前のアレクシスに笑顔で伝えた。


「えっ!!」


アレクシスは突然の事で一瞬固まる。


「華峯家と周辺を動かしました。」


そう言葉を続けたのはケイゴだ。


「A国で広げていた手を使い、王族と水面下で交渉しました。」


爽やかな笑顔でサラッと事も無げに言うケイゴだが、「王族の愛憎劇を漏らす」と半ば脅した感じになったのはミラには秘密である。


「アレク様、色々ありましたが、私が安全にここで過ごせたのはアレク様のおかげです。本当にお世話になりました!」


「そんな!こんなに早く…。」


「早いと言ってももうすぐ5ヶ月になってしまいますし、ミラも学園に復帰しませんと。だから最終手段を使わざるを得なかった。」


本来なら他国に敵を作りたく無い為、こんな手は使わない。しかしR国がしぶとかった事に加え、親分がミラに会えない事が耐えられなかった事が原因で、強行手段に出る羽目になったのは秘密である。


「いつ発たれるのですか?」


「明日の午後には。」


「ま、待って下さい!せめて送別会をさせて下さい!」


「滞在費も出して頂いたのに、そんなご迷惑はお掛けできません。」


「ミラちゃん、ここでの事を謝罪も込めて、会を開かせて欲しいんだ!」


ミラとケイゴは顔を見合わせる。


「明日の夜に宴を設けるから、明後日の朝に駅まで送るよ!」


アレクシスはミラの両手を掴んで祈る様な表情でミラを見つめる。


ケイゴがミラとの間に割って入ろうとした時、ミラはフワッと笑顔をアレクシスに向ける。


「ありがとうございます。ここではお世話になりっぱなしですね。ご迷惑で無ければ楽しみにしております。」




***



「あーさっぱりした!」


「ミラ、お風呂お疲れ様。ホットミルクどうぞ。」


「ケイゴありがとう。」


「ホットミルクはいつものことだろ。」


ケイゴはフッと笑う。


「それもだけど…帰国に関して。私には詳しく教えてくれなかったけど、ケイゴのA国での立場が悪くなったんじゃ無いかと…。」


(気づいてたか。)


「元々A国での立場なんて必要無いしな。問題無い。ミラが気にすることは何にも無い。それより授業の遅れの方が俺は心配だ。」


「…学年上がって最初のテストも微妙だったし中間試験もあるのに…思い出させないで。」


ミラは今にも泣きそうだ。


「対策プリント作るから、それで勉強して下さい。順位を取り戻しましょう。」


「ゔー。頑張る…。」


その項垂れ様に困った笑顔をして、ケイゴは優しくミラを包んだ。


(今回の色々なことを気にしてるな。)


「もう直ぐここを発ちますし、少しお散歩しませんか?」


「うん。」


2人は手を繋いで、ゆっくり歩きながら消灯して薄暗くなった広間の絵画を、間接照明を頼りに観て回る。そして、ある小さな絵画の前で立ち止まる。


「私ね、この『暁鐘』が好きなの。」


「そうだったんですね。俺もです。何故か惹かれる。」


「うん。あの別館から観た中庭の絵なんだって。」


「ええ。」


「中庭も行ってみない?」


「いいですよ。」


中庭はバラを中心に、美しい花々が月明かりに照らされて輝いている。


「昼間とは違った風情で素敵ね。」


「ええ。」


ミラはケイゴを見ずに話し出す。


「…私ね、ケイゴが絵里奈さんと私を見間違えたのがすごく悲しかったの。」


「ごめん。」


「うん。後ろ姿だったし、絵里奈さんと同じ格好だったから仕方ないとは分かってるんだけど…。それに2人が仲睦まじそうに花を見てるのも、嫌だったの。」


「ごめん。」


「子供っぽいよね、こんな些細な事でモヤモヤしてさぁ、ケイゴに嫌われちゃうのが怖くて言えなかった。」


突然ケイゴの足が止まり、それにミラは振り返ろうとすると、ケイゴが腕を引き寄せミラを抱き込む。


「謝る機会をくれてありがとう。俺もアレクとミラが仲良く話してるのがずっと気になってた。嫉妬した。だから直ぐにでもここを発ちたいと思った。ミラの視界からアイツを消したいと思った。何があっても、俺はミラを放さない。例え貴方が誰かに心惹かれたとしても、絶対に取り戻す。だから安心して欲しい。」


「うん。」


ケイゴはゆっくりとミラの顔を上げさせる。そしてそっと顔が近づき目を閉じた。それはとても優しく長い口付けだった。いたわる様な慰める様な。そんな夜だった。


次の日、珍しく寝坊したケイゴがミラの部屋へ行くと、部屋の前にアレクシスが立っていた。


「アレク、何してる?」


「ケイゴ君…。ミラちゃんに気持ちを伝えたくて…来た。」


「悪いけどフラれるだけだ。」


「分かってる。でもちゃんとこの思いに終止符を打ちたい。」


その真摯的な態度にケイゴは溜息を吐く。


「せめて朝食後にしてやってくれ。寝起きは見られたく無いだろうから。」


「ああ、そうだよな…。今日で最後だと思うと焦ってしまって…。ケイゴ君、悪いんだけど、最後に思い出を貰いたいんだ。」


「女を選びたい放題と噂のアレクがそんな事言うとはな。」


「愛してるフリも、いい男のフリも出来る。でもミラちゃんと出会って、毎日に色が付いたんだ。何をするにもミラちゃんが気になって、会えた時は凄く幸せで…。ケイゴ君と居ると嫉妬して。そんな思いは初めてで、随分卑怯な人間だったと自覚したよ…。君の事を嫌いになれれば良かったのに、憎いはずの君はミラちゃんの為だけに行動してて。そういう君を尊敬してた。」


「…アレクがもっと嫌なヤツだったら、ミラに会わせないんだけどな。どう言う訳か、俺も君を嫌いになれなかった。」


「あ!2人ともおはよう!!」


突然ミラが扉を開ける。2人はビックリしながらそちらへ向くと、ケイゴはギョつとし、アレクシスは少し赤くなりながら気まずそうに顔を逸らした。


「お嬢!なんて格好で出てくるんですか!」


ケイゴはミラを押し返し扉を閉めながら話す。


「ちょっと開けてよー!ケイゴー!」


「ダメです!早く着替えて!」


「楽しそうな声が聞こえたから開けただけじゃん!何がダメなのよー!」


中から叫びながらミラは扉を開けようとするが、ケイゴは外から抑えて開かない様にする。


「いいから鍵を掛けて着替えなさい!」


しばらく扉の内外で攻防を続けるが、観念したミラは内鍵を掛けた。その様子に安堵の溜息を吐くのを見てアレクシスが言う。


「君の鋼の自制心に感服するよ。」


そんな言葉を同情的な目で言われ、苦笑いになる。


「まぁ、俺の場合は昔からだからな。慣れてる。胸チラくらいは日常茶飯事だからな。」

(長いスカートが主流のこの国で、ミニスカで太ももが晒されているのを知ったら驚くかな?)


「僕の周りにもきわどい格好で近づいてくる者はいるが…好きな子のは強烈だな。頑張れよ。」


やはりアレクシスの目は同情的だ。


そんな話をしていると、しっかり着替えたミラがソーっと扉を開ける。


「着替えたから出てもいい?」


「大丈夫ですよ。」


そうして3人で食堂でご飯を食べ、部屋へ戻る道を歩く。


「お嬢、俺ここでお世話になった人達に挨拶回りしてくるんで、アレクに部屋まで送ってもらって下さい。」


「なら私も行く!」


「いえ、お嬢が入れない機密を扱ってる部署もありますので。」


「分かった。」


ケイゴは一瞬アレクシスに視線を送ると、サッと行ってしまった。


「ミラちゃん、少し中庭に寄ってもいい?」


「はい!」


中庭は心地良い風が吹いており、お散歩日和だ。手入れ中の庭師はいつも人が来ると、フラッと別の場所へ行き見えなくなる。本当に良く教育されている人達だ。今日も移動しようとした庭師に、先にミラが声を掛ける。


「いつも綺麗なお花を見せて頂いていました。ありがとうございます!どうかそのままで。」


「あっ、、でも…。」


庭師はアレクシスに視線を送る。


「向こうに行くから続けてくれるかな?」


「…はい。」


アレクシスは手を差し伸べて東家にエスコートする。そこに紅茶とお茶菓子が運ばれ、暫く2人でお茶をする。


「ミラちゃんに話があるんだ。」


「何ですか?」


「…初めて君と会った時は、何となく気に入っただけだった。でも一緒に過ごす内に、お嬢様らしく無い君に惹かれた。」


クスクスと笑うミラ。


「笑ってごめんなさい。お嬢様らしく無いって、本人に向かって言っちゃう?その通りではあるけど。庶民だからね。」


「僕は本気で告白してるんだけどな。」


アレクシスは少し困った様な顔をする。


「ごめんなさい。私ね、ケイゴが好きなんです。もう凄く前から。だからこの気持ちには応えられません。」


「…ふー。うん。ちゃんとフッてくれてありがとう。最後に思い出をくれない?」


「思い出?」


「抱きしめさせて欲しいんだ。」


ミラは目を大きく見開いてビックリしている。でもフッと笑う。


「私で良いなら。」


「良い訳ないでしょ。」


後ろからそんな声が聞こえる。見ると物凄い笑顔のケイゴが立っている。


「時間切れです。部屋に戻りますよ、お嬢様。」


そう言いながらミラを立たせるけど。


「残念ですけど、これ以上は塩は送れません。」


「そうだね。ありがとう。じゃぁミラちゃん、夜のパーティーでね。」


そう言ってアレクシスは去っていった。


「塩の贈り物に喜ぶなんて、アレク様は料理男子なの?」


「…お嬢はもっと歴史を勉強した方が良いですね。」


「???」


その夜のパーティーは美味しい料理と楽団の生演奏で楽しく更けていった。

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