破れた心4
「お嬢、なにしてるんですか?」
ミラは急に部屋に帰ってきたかと思うと、徐にトランクを出して荷物を詰め始めた。元々あまり出していなかった為、そんなに量はない。
「荷物纏めてます。」
「見れば分かる。何で急に?」
(横恋慕事件でもそんな事しなかったのに。)
「別館はね、私が滞在して良い所じゃなかったみたい。ケイゴ、悪いけど安い宿探してくれない?」
「お嬢がここを出たいならすぐに探しますが…。取り敢えず何があった?理由を説明してくれますか?」
「ここは本来はアレク様のご婚約者がお使いになる所らしいの。でも私は違うから。」
「なる程。それを悪意あるどなたかからお聞きになったのですね。」
「悪意なんてないよ!絵里奈さんは心配して話してくださったの。別館でいじめられてないかって。」
「いじめ?」
「うん。食事とか掃除はどうかって。勿論いじめなんて無いから、大丈夫って答えたけど。」
「春島さんは、具体的に何を心配されてたんですか?」
「料理は美味しいかと、掃除が毎日入っているかを聞かれたわ。」
「何と答えたんですか?」
「クセがあるけど美味しいって答えたよ。」
「クセ?」
「うん?何か微妙に酢が強かったり煮物も砂糖甘かったりとか。ソースがちょっと苦かったり。」
「…掃除は?」
「掃除道具が置いてあるから自分でしてるって答えたよ。」
ケイゴの表情はいつの間にか氷の王様の様なとても冷ややかになっている。
「どうしたの?怖いよ?」
「いえ、お嬢は悪くありません。気づかなかった俺が悪いんです。申し訳ありませんでした。親分にも報告します。」
「待って!それがいじめだった証拠は?」
「俺の食事は毎食とても美味しかったです。例え一人一人好みが違うと言っても、クセがあると思った事は一度もありません。それに掃除だって、俺の部屋には毎日入っています。道具だけ置かれた事はありません。どんな状況でも気にせず楽しく過ごせるのはお嬢の長所ではありますが、悪意は見逃せません。」
「でもそれだとケイゴがまた叱られちゃうじゃん!」
「それでいいんです!」
「私が気にしてないんだから、ケイゴも気にしなくていいの!報告はしなくていいよ!」
「ダメです!」
「ダメじゃない!」
ミラとケイゴは睨み合う。
「ならせめてアレク殿には報告します。」
「それもしなくて良いよ。皆さんが怒られちゃうじゃん。」
「コレを放置すると、良い事はありません。例えば将来本当に婚約者が来ても、使用人が納得しなかったらいじめられるという事ですよ?他者が嫌がらせに遭ってもいいんですか?」
「…それは…。」
「本物のお嬢様だったら、きっと精神を病んでしまいますね。それに他国の姫様みたいな方だったら国際問題にもなりかねません。」
「分かった。でも出来るだけ穏便に済ませて欲しい事を伝えて。」
「はい。」




