自尊心
アレクシスに連れてこられたのは、ツリーハウスだった。
「ここはかつて、約束の森と呼ばれてたんだけど、別名を励ましの湖とも言ってね。」
「森は分かりましけど…湖もあったんですか?」
「あったというか、なったんだ。」
「なった?」
「そう。ここは不思議な土地でね、冬になると地下水が上がってきて、一面湖になるんだ。」
「湖に…。」
「そう。しかもここ一体は、このツリーハウスの木以外は落葉樹だから、冬は葉っぱが無くなる。水面が太陽でキラキラ光って、それは美しく輝いたらしい。本来なら今正に!な時期だね。」
「今はそうならないんですか?」
「ああ。地殻変動でね。」
「そうなんですか。」
「冬の時期はツリーハウスに近づけない勇者は、何かあるとここへ来て湖を眺めていたんだ。その美しさに、感動し励まされたんだよ。」
「だから励ましの湖…。」
「そう。」
「ステキ。確かにここが一面湖で、この木とツリーハウスだけが切り取られた光景はきっととても神秘的で悩みなんてすっ飛んだんでしょうね。」
「フフフ。そうだね。」
「もー!なんで笑うんですか!」
「いや、だって神秘的で悩みがすっ飛ぶって!ハハハ。」
「だって、自分の悩みなんてちっぽけに思うでしょー!笑わないでよ\(//∇//)\」
「ごめん、ごめん。とっても可愛くて!」
「もう!そんなんじゃ誤魔化されませんから!」
***夕食時
「あれ?ケイゴは?」
ミラはメイドに聞く。
「亜月様ならまだお戻りでは有りませんよ。絵里奈様との外交官系の会議がまだ続いているのでしょう。」
「…そうですか。」
(朝から晩まで掛かる会議ってなんなの?)
ミラは不安に思う。
(ケイゴを信用してないわけじゃないけど、心配…。)
「お嬢様、お食事は食堂でなさいますか?」
「あー…お部屋でいただきます。」
「かしこまりました。」
すぐにメイドがご飯の用意をしてくれ、ミラは1人で食事をした。
(ここに来てからケイゴと時間が合わないな…。何してるんだろ…。)
***
俺はR国に来てから、大学の資料作りの他にやる事が無く、最初は屋敷の手伝いをしていたが、アレクの仕事が溜まっているのを見つけ助言した事から、補助を頼まれる様になった。
外交だけでは無く、慈善事業も行っている当主の代わりに、孤児院に春島さんと一緒に視察に行ってから、2人でしばしば孤児院に手伝いに行くように頼まれた。衣食住を提供してもらっている為、俺はその申し出を快諾し、今日も春島さんと一緒に孤児院に来ている。
「ケイゴ兄ちゃん!あそぼー!」
「ああ!何する?」
「あのね、鬼ごっこ!」
「いいよ。じゃぁ俺が鬼ね。にげろー!」
「キャー!!」
子供達は一斉に走り出し、ケイゴもそれを追いかける。何とも平和な風景である。
「絵里奈様、本日もよろしくお越しくださり有りがとうございます。みんな、お二人が来られるのをとても楽しみに待っているのですよ。」
孤児院の院長が話しかけてくる。
「亜月さんは子供達に人気ですね。」
「えぇ、本当に。良いお父さんになりそうですね、絵里奈様。」
意味ありげに視線を向ける院長。
「な!何をおっしゃってるんですか!」
「違うんですか?絵里奈様がケイゴ様を見つめる目はそんな感じがしましたが。」
「もう!院長先生、揶揄わないで下さい。彼は他国の方ですよ。」
絵里奈は真っ赤になりながらも否定する。
「あら、国は関係ありませんよ。お互いのお気持ちが大切ですよ。私から見て、お二人はよくお似合いですよ?」
「でもケイゴ様にはご婚約者がいらっしゃって。」
「今まではその方が良かったかもしれませんが、今はどうか分かりませんよ?人の気持ちは変わりますから。」
「…ケイゴ様は私の事をどう思っているのからしら。」
「とても愛情深い目に見えますけど。」
***
屋敷に帰宅後、報告のために2人でアレクシスの執務室へ向かう。ケイゴ様は電話をしながら私の隣を歩いている。道すがら絵里奈の耳にはヒソヒソ話が聞こえる。
「今日もお二人一緒にいるわ。やっぱりお似合いね。」
「本当に!この間は2人で庭園でキスをされていたのを見たわ!」
「えっキス?」
(キ、キス!!?ケイゴ様とミラさんはそんな目立つ所でキスしたの!?)
もちろん2人はキスしていないから、絵里奈はそう思った。しかしメイド達が噂をしているのは、間違い無く絵里奈とケイゴだ。ミラも目撃したキス事件。
アレは王道の、ただ躓いてケイゴが支えた拍子に顔が近づいただけだ。そしてその近さに驚き固まってしまった絵里奈を心配してケイゴが覗き込んだ事が全貌である。
ケイゴを見上げると、目が合ってしまい、途端に恥ずかしくなる。電話を終えたケイゴがニコッと微笑む。
「何かありましたか?」
「いえ、なんでもありません。あの、ケイゴさんは…」
「ケイゴ!」
通路の向こう側から綺麗な声が飛んでくる。見やるとミラだ。
「ミラ!どうしたんですか?」
「…。」
ミラは絵里奈とケイゴを交互に見ている。
「お二人ともお仕事お疲れ様です。良かったら今日は一緒に晩ご飯食べれないかと思って。」
「あーすみません。今日の報告書のまとめもあるので…。」
「そっか。忙しいのにごめんなさい。」
ミラは視線を落として真顔で謝り、踵を返す。
「ミラ、ちょっと待って。」
ケイゴはミラに駆け寄り耳元て囁く。
「夜部屋に行きます。」
ミラは後ろを向いたまま「うん。」と答えて歩いていく。
「ケイゴさん、晩ご飯はどうされますか?」
「一緒に食堂で食べるのはいかがですか?」
「はい、勿論です!」
一瞬ミラがチラついたが、ケイゴは明らかに絵里奈を優先している。
(ミラさんはすぐに断ったのに、私とは食べてくれる。最近はずっと私といてくれるわ。)
そう思った途端、体の底から喜びが込み上げてくる。
(似てると言われてるあの子に私は勝ったのよ!)
そんな思いが心を満たして、頬が緩んでしまう。




