美味しい晩ごはん
「何でこんな事になってるんだろう…。」
ミラは目の前のメンバーを見回しながら、そんな事を考えていた。思えば1時間前の自分の選択が運命を分けた気がする。
***1時間前
ミラは部屋で勉強をしている。そこへコンコンとノックされる。
「どうぞ。」
「ミラ!久しぶり!」
元気よく部屋へ入って来たのは、明である。
「明くん!久しぶり!どうしたの?」
「ミラはもう晩御飯食べた?」
「まだだよ!もうそんな時間?」
時計を見ると18時過ぎで、1時間もすればディナータイムだ。ここでは客人であっても王族の配膳が優先されるので、自分で何か食べない限りはミラがご飯を食べられるのは19時半頃になるだろうか。
「ねぇ、それなら一緒に食べようよ!僕の部屋に用意させるから!」
(私のご飯が遅くなるのを気にしてくれたのかな?)
些細な気遣いにホッコリする。
「ありがとう^_^」
「まだディナーまで時間があるから、少し散歩しない?温室の花が綺麗なんだよ!」
「わー!行きたい^_^」
***温室
「王子教育はどう?」
「大変だけど、自分で決めた事だから頑張るしかないと思ってる。」
「そっか。偉いね!」
「別に普通だ。」
(ミラに男として認めてもらう為だからな。)
「ん?あれ?誰か居るね。」
「ここは客人なら誰でも入れるからな。」
「アレクシス様だ!」
するとアレクシスが振り向いて笑顔を向ける。
「これは可愛いメイドちゃんじゃないか。番犬の次は小さなナイトがついてるんだね。」
「第三王子の明様です。」
「R国の外交官のアレクシス殿ですね。」
「ええ。初めまして。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません。」
「お気になさらず。正式な挨拶は明日と聞いておりますので。」
アレクシスと話していると、後ろからフットマンに声を掛けられる。
『ご歓談中失礼します。』
『明殿下、陛下がお探しです。執務室へお願いいたします。』
『!分かった。』
ミラに申し訳無さそうな顔を見せる。
「私は少しここでお花を見てるから、後で一緒にご飯を食べようね!」
「ごめんね…。」
「それなら私がミラ嬢のお相手をさせていただけますか?」
「えっ?」
「お茶会の時もあまり話せませんでしたし、少しお話ししませんか?」
「はい!是非!明くん、私アレクシス様とお話ししてるから、大丈夫だからね。」
「うん…。」
明は怪訝そうな顔をする。
「ミラ、あの人を信じちゃダメだよ!男は狼なんだから!」
そう耳元でコソコソと忠告する晶に、ミラはフフっと笑い「ありがとう。」と返す。
「本当なんだから、油断しちゃダメだからね!!」
そう強く念を押し、明は諦めて王の執務室へ向かった。それを見送ると、アレクシスがミラの隣に来て腕を軽く曲げる。普通の上流階級なら、それがエスコートだと分かるが、ミラは気づかず歩き出そうとする。
「ミラ嬢、私に貴方をエスコートする栄誉を下さいませんか。」
ミラは一瞬ビックリした顔をするが、「ありがとうございます。」と笑顔を返して手をからめた。
「ここの温室はバラが綺麗に咲いていますね。私バラが大好きなんです!」
「ここのバラは品種改良と温度管理で時期をずらして咲かせている様ですね。」
「詳しいですね。」
「当国でもやってますからね。」
「R国は全ての花が集まる国って言われる程、緑豊かなんですよね。」
「ええ。様々な環境に対する政策をして、自然を保護していますよ。」
「行ってみたいです!」
「是非いらして下さい!ご案内しますよ。」
「伺う時は是非お願いします!」
「ええ。楽しみにしています。社交辞令ではありませんから。」
「…アレクシス様はお忙し────」
言いかけると、アレクシスがミラの口元に人差し指を近づける。
「???」
「どうかアレクとお呼び下さい。長いからね。それに、もっとミラ嬢と親しくなりたいのです。」
「私のことも気軽にお呼び下さい、敬語も要りません、アレク様。」
「そう?じゃぁミラちゃんって呼ばせてもらうね。」
「はい!」
「ミラちゃんは、KAHOのお嬢様なんだよね?」
「ご存じだったんですね。」
「まぁね。そんな事より、社交辞令じゃないから、ほんとに遊びに来る時は僕にガイドさせてね。たくさんキレイな所に連れてってあげる。例えば王城のバラ園とか、国最大のプラネタリウムとか。白鳥の飛来する湖を一望出来るコテージなんかもお勧めだよ?」
「へー。なら俺はプラネタリウムに連れてってもらおうかな。」
「えっ!」
突然聞こえた男の人の声にビックリして振り返るミラ。いつの間にかケイゴがそばに立っていた。
「折角だが僕は男と出かける気はありませんよ。」
「奇遇ですね、俺もです。折角のお誘いですが、デートスポットは俺と回りますから。」
そう言いながらケイゴはミラを背後から抱きすくめる。急な出来事に真っ赤になるミラ、口をパクパクさせている。
「そうですか?じゃぁ美味しいディナーにでも誘おうかな?」
(デートスポットっていうところ、全く否定しないのかよ。)
「どうしてケイゴがここに?」
ミラは抱きすくめられたまま、ケイゴを見上げる。上目遣いにドキッとする。
「明とディナーって聞いたからな。」
「うん。でも呼ばれて行っちゃったから、アレク様とお散歩してたの。」
「…。」
(アレク様だと?)
「ふーん?いつの間に愛称で呼ぶ程の仲になったのかな?」
「ん?さっきだよ!長いからって気を遣っていただいたの。」
「長い、ねぇ。そんなのは口実に決まってるのに直ぐ騙されますね、貴方は。」
ポーカーフェイスだが、若干変化した表情と声色に、怒気を感じるミラ。
「怒ってるの?」
「…いいえ。…でも、初対面では無いにせよ、あまり良く知らない男と2人っきりになるのは賛成しかねます。」
「アレク様は良い方よ?」
「あのね、男なんて信じちゃいけません。煩悩のままに生きてるんですから。貴方が信じていい男は俺だけです。俺だけが貴方に触れて、俺だけが貴方に幸せをあげられるんです。だから、俺の事だけ考えて下さい。」
そう言われたミラはさっきよりも真っ赤になっている。
「すごいなぁ。ケイゴ様は意外とやきもち焼きで熱い男だったんですね。」
ケイゴが視線だけをアレクシスに送る。
「ええ、俺のですから。」
自分の言った皮肉が全く通じず、アレクシスは苦笑いだ。
「さあ、ディナーに行きますよ。」
ケイゴは自然にミラの手を取ってエスコートし歩き出す。
「アレクシス様も、どうぞこちらへ。」
ちょっと不機嫌に促す。
「何で怒ってるの?」
「…。怒ってはいません。納得がいかないだけです。」
「?納得?」
「…行けばわかります。」
そのまま無言のケイゴに連れてこられたのは、王族が食事をする大広間だった。




