お茶会しましょ
ケイゴとアレクシスが中庭に来る。
「お待たせしました!さぁ、どうぞ!」
ミラはテーブルを促す。
「ご招待ありがとうございます、お嬢様。」
アレクシスはミラの手を取ろうとする。その瞬間、ケイゴがアレクシスの手をガッツリ掴んだ。
「こちらこそありがとうございます。」
ケイゴもアレクシスも笑顔で握手しているが、お互いにギュウギュウ握り合っている。
「何故貴方がお礼を?」
「俺の連れが開催しているお茶会にご参加頂きましたので。」
いがみ合っている事に全く気づいていないミラは、2人が仲良しなのをニコニコ見ている。
テーブルに付くと、眩しい笑顔でお茶を淹れるミラ。その瞬間フワッと芳しい香りが立ち上る。そして何とも美しい所作でカップを差し出す。
「どうぞ。」
「いただきます。」
紅茶を飲むアレクシス。
「はーぁ。美味しいですねぇ。」
「本当ですか!ありがとうございます。こちらのシフォンケーキも美味しいのでどうぞ。」
「アールグレイとシフォンケーキは鉄板ですね!ん?これは…。」
「オレンジの果汁を入れたホイップクリームです。アールグレイの香りと馴染む様にしました。お疲れの様でしたので、爽やかな柑橘の香りで少しでもスッキリされると良いなと思いまして。」
「へー。私のことを考えてくれたの?」
「はい!楽しんで頂ければと思いまして!」
「へー。嬉しいなぁ。」
2人のやり取りにケイゴは面白くない顔をしている。と言ってもポーカーフェイスは崩さないので、分かるのはミラぐらいだが。
「ミラも座って。」
ケイゴはミラに声をかけながら腰に手を回して引っ張り自分の膝に座らせる。
「キャッ!」
「はい、アーン!」
とても良い笑顔でミラの口にシフォンケーキを差し出して来る。
(ちょっと!そのフォーク、ケイゴのやつ!)
「どうしたんですか?恥ずかしいんですか?俺の裸も見たのに?」
カーっと紅くなる。
「私の裸も見たよね。」
からかった様にアレクシスもシフォンケーキをフォークに差してミラの方に差し出す。
「………ムリー!!!」
ミラはじっくり溜めて大声をあげて逃げて行ってしまった。残された2人は目が点になる。
「「……。ふ、ははは!」」
どちらからともなくクスクス笑い出す。
「ケイゴ様のお姫様はお可愛らしいですね。」
「でしょ。あげませんよ。」
「知りませんでした。華峯家のお嬢様があんなに面白い方だなんて。」
「…やっぱり気づいてらっしゃったんですね。」
「貴方の態度が分かりやすすぎですから。」
「まぁ、そもそも隠す気無かったので。」
「まぁそうでしょうね。」
アレクシスは紅茶を見つめる。
「彼女が色々なことに巻き込まれないといいのですが。」
「………。」
***
恥ずかしくて逃げたミラ。お茶会をしている東屋の近くの植木の後ろに裏に隠れて、ドキドキが治るのを待つ。へたり込んでしまった。頬に触れると熱を浴び、真っ紅になっているのが予想された。
すると宮殿の方からなんだか騒がしい声が聞こえてくる。『待って下さい!』とか、『執務にお戻りください』『余ももてなして貰うのだ!』なんて言い合いが聞こえる。その軍団から1人が駆け出し、ミラへ近づいて行くのを、ケイゴとアレクシスは視界の端に捉えその様子を伺った。
ミラは近づいて来た人物の気配に気づき、視線を合わせる。
『失礼しますミラ様、王様もお茶会に参加なさりたいと申しております。』
『勿論です!』
笑顔で答えたミラはサッと立ち上がり、再びお茶の準備を始める。
『ミラ嬢、余混ぜてくれるか?』
『勿論です!』
『お断りします。』
ケイゴとミラが同時に言う。
「ちょとケイゴ!意地悪言わないの!」
「お嬢は分かってないみたいだけど、こいつはお嬢を暗殺しようとしたんだぞ!」
「暗殺?ハハハ!私を殺して何か良い事あるー?フフフ。」
暗殺の単語を聞いて密かに驚いたのはアレクシスだ。
(まさかこんな人畜無害なお嬢さんまで私利私欲の為に害そうとするなんて…。 )
通訳をしてもらった王が話しに入る。
『余はそんなことしていないぞ。』
実際は暗殺計画があった(王族の傲慢さ参照)。しかしケイゴの逆鱗に触れてしまうことで取りやめの指示を出した。が、一歩間に合わず実際に行われたしまったが、素知らぬ顔をする。
ケイゴは眉を顰めるも、空気を壊さない為それ以上は言わないが、警戒は崩さない。
『まぁ、まぁ、そんなことより、王様どうぞお掛け下さい。お好きな紅茶はありますか?』
王は座りながら答える。
『余はセイロンが好きだな。』
『健康志向ですね!』
ミラは持っていたセイロンの中から茶葉を軽くブレンドして、オリジナルブレンドにする。
『甘い物は大丈夫ですか?アレルギーとか。』
『大丈夫だ。』
『でしたらハチミツミルクティにしても良いですか?』
『ぜひ君のおすすめを飲ませてくれ。』
『気に入って頂けると良いのですが。』
そしてお茶を淹れると王の前へ出す。
『お待ち下さい。』
「???」
『先に私が。』
ミラはニコッと笑ってもう一杯紅茶をつくり、そしてシフォンケーキも護衛に渡す。護衛はそれを確認しながら飲む。
『問題ありません。御相伴ください。』
紅茶を一口飲むと、普段飲んでいるものよりも複雑な風味を感じた。それらをフワッと包み込む様にミルクが一纏めにしている。
『普段ミルクティーは飲まないが、美味しいね。』
『健康志向の王様には、これが1番合ってると思いました。ハチミツの風味に合う様に茶葉をブレンドしてみました。』
『そうか、ありがとう。余のことを考えてくれたのだな。』
『普段飲まれる物は、きっともっと王様に寄り添った紅茶だと思います。私も、もっと寄り添った紅茶が入れられる様に頑張ります!』
「お嬢はこいつに茶を入れる必要ありません。」
「えー!」
『では余が雇ってやろう。』
『間に合ってます。』
ケイゴは相変わらず表情を崩さずすぐに拒否した。
***
『アレク様、王宮は如何でしたか?』
『あぁ、紅茶が美味しかったよ。…欲しくなるな。』
『…珍しいですね。そんなに美味しい紅茶なら、うちでも注文しましょう。』
「そう、だね…。本当に欲しいなぁ。」
それは呟く様な声だった。




