運命の日
ついに修羅場を迎えたミラとケイゴ。
ミラとケイゴの選ぶ道は?
ケイゴは親分の部屋の前にいる。
「親分、ケイゴです。少しお話いいですか。」
親分が襖を開け、招き入れる。
「どうした?珍しいなぁ。」
朗らかな笑顔の好々爺だ。
「今度の土日、一泊外泊させていただきたいのですが。」
「誰とだ?」
眉を下げ低く聞く。
「学生時代に交流があった方と最近再開しまして、一緒に遊ぼうという話になりました。」
「そうか。分かった。気をつけて行っておいで。」
***
コンコンコン
ノックが聞こえる。
(ケイゴだ。)
「どうぞ。」
ミラは勉強机に向かいながら話す。
「お嬢、今度の土日に泊まりで旧友に会って来ます。」
「そう。いってらっしゃい。どこに行くの?なんて、野暮な事聞いちゃった!ごめんね。言わなくていい。」
慌てて取り繕うと、ケイゴは微笑む。
「まだ話し合い中です。」
(多分ホテルだとは言えない…。)
「私、まだ勉強したいから。お休みなさい。」
「はい。お休みなさい。」
(また、顔が見られなかった…。)
***
お出掛け当日 ー
(こんなに嫌なお出掛けは初めてだ。そろそろ待ち合わせ時間か。まさか、このカフェで会うなんて。)
そこは、以前からミラが行きたいと言っていたお店の前に立っている。人気でなかなか予約が取れない。
(どうやって予約したんだか。)
ぼーっと待っていると、向こうから近寄って来る姿が見えた。微笑みを携え真っ直ぐ歩いて来る凛とした姿に視線が引き寄せられる。
そこには、普段と違う雰囲気のミラがいた。男所帯で過ごしているミラは普段、首のつまった服やジーパンスタイルだ。
しかし今のミラは、オフショルダーにショートパンツ。肌を惜しげも無く出している。それでいてはしたなくならず上品に着こなしている。見た事の無い大人っぽいお飾りを着けて。
俺の前で止まったミラは穏やかな笑みを深め、ハッキリと言った。
「恋人ごっこはやめます。もう解放しますよ。」
何を言われたか理解出来なかった。
ミラはそれだけ言うと体を翻し、喧騒に溶けて行った。いつもなら絶対ミラを見失わない。しかし今日は違った。もうミラが分からない。
「ケイゴ遅れてごめん!」
はしたない女がやって来た。胸元はバックリあいて、マイクロミニのスカート。男なはこう言うのが好きでしょ?というような目に、吐き気がする。
(俺は今からこの女と…。あの時と同じだな。俺は成長していない。)
自分に嫌気がさす。
ふと、あの日ミラに言われた事を思い出す。
「あの日」。そう、俺がミラに心を奪われたあの言葉。
「勇気?そんなの誰にも無いわよ。人は弱い生き物だもの。そんな貴方も大好きよ!一緒にいれば大丈夫!!」
そう言って壊れそうな俺を包み込んでくれた。
「行こ!ケイゴ❤︎」
絡みついた女の手を捻り上げる。
「いったーい!遅刻くらいでそこまで怒ることないじゃない。」
「お前だな。彼女を傷つけたのは。許さない。」
冷たく言い放ち手を離す。びっくりした真綾は、地面に尻餅を付いた。
ケイゴはその場から離れてミラを探す。何度も電話を掛けるが、着拒されている。LINEもブロックされている様子。
(ミラは本当に俺との関係を精算しようとしている。一瞬心が弱くなる。でも…。マヌケでもカッコ悪くても縋り付くと決めた。)
「ミラ…。」
家の者に連絡する。ミラを探せと。
「お嬢なら、今日は帰らないよ。友達のとこに泊まるって言って出掛けたよ。」
舌打ちをして電話を切る。こんな時に行く宛の予想も付かないなんて、情けなく感じる。
突然電話が鳴る。画面には『結城』と出ている。今話したい気分じゃ無いが、事情を話せる他の人も居ない為、仕方なく出る。
「もしもし?」
ケイゴの声は不機嫌を全面に押し出している。
「あはは、機嫌悪りーなぁ〜。」
ゆるい話し方にイラッとする。
「何だよ。」
「おぉう。救世主の先生に向かって、結構な言葉遣いだなぁー。」
「はや話せ。」
「はいはい。ミラちゃん、俺と居るよ♪」
「あぁん?」
かなり不機嫌な声だ。
「だから、ミラちゃん探してるんでしょ?違った?」
「違わん。何でミラが先生んとこにいんだよ!」
「まぁ落ち着けって。しょうがないでしょ?俺以外に話せないんだから。兎に角、ミラちゃんは保護してるから、落ち着きなさい。」
「…。一体どこに居るんですか、ミラは。」
「ミラちゃんは俺の家。後で住所送ってあげるから、頭が冷えたら迎えにおいで。」
「すぐ送れ!」
「今のお前が冷静にミラちゃんと話し合えるのか?」
「………。」
「頭が冷えなかったら、このまま泊めてあげてもいいけどー」
言い終わる前にケイゴが言う。
「良い訳ねぇーだろー!」
「だから、落ち着けって。心配すんな。俺と二人っきりじゃ無いから。一先ず頭冷やせ。」
そう言い終わると、ブチっと電話を切られた。
最初はケイゴから「早く住所教えろ」と催促LINE が来たが、一時間後には鳴らなくなった。
結城は、束縛の強い彼女はこんな感じなのかと、ため息を付いた。




