スマホさえもっていれば2
胃腸炎にかかっておりました。みなさまご自愛ください。
ミラが目を覚すと、そこは知らない場所だった。でも頭がボーッとして何も考えられない。
「目が覚めましたか?」
声を掛けて来た男性はミラを覗き込む。
「…。えっと…。」
「貴方は学校の廊下で倒れておられたんですよ。」
柔和な微笑みにホッとするミラ。
「お昼は過ぎてしまいましたが、お粥があります。どうぞお召し上がり下さい。」
「…あ、食欲が…。」
「そうですか、ではスポーツドリンクはせめてお飲み下さい。」
「ありがとうございます。」
あまり飲む気はしないが水分補給は大丈夫だと思い飲むミラ。しかし物凄く気持ち悪くなり吐いてしまう。
「すみません、お見苦しいところを…。」
男性はしきりに背中をさすってくれる。
「いえ、こちらこそ無理に勧めてしまい、申し訳ありません。気持ち悪さは治りましたか?」
「はい。」
「39度のお熱があります。出来れば解熱剤を飲んでいただきたいのですが…。」
「…飲みます。」
男性は少量の水に薬を加え、練って口へ入れてくれる。それを何とか飲み下す。
「後程お医者様が点滴を打ってくださるそうなので、それまでもう暫くお休み下さい。」
「…。」
「お嬢様、お嬢様、お身体をお拭きしてもよろしいでしょうか?」
次に目を覚ましたのはそんな声掛けである。さっきの男性がホットタオルを手にこちらを見ている。
「…貴方が?」
「はい、申し訳ありませんが、私しかおりませんので。大丈夫です。私は執事ですから。」
本来なら女性がいいが──というか、別に今体を拭いて欲しい訳では無いが、そんな事は高熱であるミラには考えられない。
「…。」
潤んだ目で見つめ返すことしか出来ないミラに、その男性は何故か口付けをする。
「!!っえ!」
「興奮されません様に。この後点滴が入りますから、その前にお身体をお拭きする様に仰せ使っております。」
「大丈夫です…。」
ミラは力無い声で言うが、男性はそれを肯定と取ったのか「では失礼致します。」と胸のボタンを外していく。
「大丈夫。今は解熱剤が効いて、熱も7度台ですから、今のうちに。」
突然ふっと笑った男性は、ミラの下着の中をタオルで拭き出す。
「やめて…。」
その瞬間、男性はミラの喉を片手で掴む。
「ゔ」
あまりの苦しさにうめく。そして穏やかな笑顔のままに告げる。
「抵抗しない方がいいですよ。貴方は人質なんですから。今の貴方は私の手の内。ちょっとの力でどうにでも出来るのですよ。手荒なことをされたくなければ、大人しく従って下さい。」
ミラはその貼り付けた様な笑顔にゾッとし、抵抗を諦めた。
男はミラの胸やお腹、脇など拭きながらもときどきしつこく敏感なところを攻めてくる。直に触りミラを堪能する。
「おや、ただ身体を拭いているだけなのに、貴方のお胸は舐めて欲しいと訴えて来ますね。」
そしてそこに舌を絡められてしまう。
「うぅ、はぁ、はぁ、、ぁ、。何でこんな事を…。」
「高校生など子供だと思っていましたが、やっぱり好きな男と住んでいるだけはある。しっかりと感じていらっしゃいますね。」
ミラは精一杯睨む。
「そんなうるうるした瞳で見られても、物欲しそうにしか見えませんよ。良いでしょう。下も触って差し上げます。」
「やめて!」
ギリ
ミラの首を再び掴む。
「ゔ。」
その時廊下から話し声が聞こえる。
「私、学園で体調が悪そうになさっている方をお見かけしたんです。お迎えに時間が掛かるとお聞きして、うちへいらしていただいたの。そしたらカホウ ミラさんと仰るじゃない?紫苑様の婚約者の方だと直ぐに思い至りまして、こうして来て頂きましたの。」
可愛らしい女性の声が聞こえてくるが、尚も首を絞められているミラにはその内容を理解する余裕はない。
執事は廊下の声を聞いて手の力はそままにミラの胸をわざとらしく舐める。
「こちらのお部屋なのですが…。扉が開いてますわね。」
その隙間から男がミラに襲いかかっている姿を目にした紫苑は、慌てて部屋へ入り力の限り男を引き離す。
「ミラちゃん!」
はだけたミラに毛布を掛けて後ろに飛ばした男を振り返り睨みつける。
「何をしている。」
びっくりする程の低音が響く。
「な、なんて淫らな方なの?看病しているルシアを誘惑して体まで触らせて!それでも紫苑様の婚約者の自覚がおありでして!?」
「…!」
ミラは混乱している。
(えっと、私?が誘惑したの?)
「…君は。大変な事をしでかしてくれたね。」
今まで聞いた事の無い様な紫苑の声色に、そこにいたミラと女性、男性は震え上がり、遅れて部屋へ入って来た紫苑の執事は目を丸くしている。
「ルーイ、父に連絡を。それと叔父様にも。覚悟して来てくれと伝えて。ケイゴにはボクから話す。」
「承知しました。」
ルーイと呼ばれた男性は部屋の外で電話を始めた。紫苑もその場でケイゴに電話する。
『もしもしケイゴ?ミラちゃんが見つかったよ。ただちょっとトラブルがある。…うん。そう。ハリス家の分家の家は分かる?そこにいるから。』
「…。」
「…えっと、あの、すみません。」
ミラは怒っている紫苑に声を掛ける。
「それは、何に謝っているのかな。兎に角ミラちゃんは暫く寝て。早く良くなって。」
紫苑は冷たい声で言うが、ミラを撫でる手は優しい。
***
「レニー、君は本当に困った事をしてくれたね。」
「な!なぜ私なのですか!カホウ ミラさんがルシアを誘惑したのですわ!そうですわよね?ルシア。」
ルシアと呼ばれたミラを襲った執事に視線を送る。
「はい、私はミラ様に誘われて…。ですが、執事として、その誘いに乗ってはなりませんでした。申し訳ありません!」
「ルシアのせいではありませんわ!誘ったあの方にも非がありますわ!お従兄弟様は婚約者に腹が立たないのですか?あんな方はハリス家に合いませんわ!婚約を破棄すべきです!」
紫苑は従姉妹であるレニーに冷たい視線を送る。
「ミラちゃんはやたらめったら男を誘惑する人じゃない。」
「ですが事実──」
「黙りなさい!」
紫苑が強い口調で咎める。
「話は父やケイゴが来てからだ。それまで部屋に居なさい。」
紫苑の冷たい態度に、悔しさを滲ませながらレニーは部屋へ戻る。
***
「紫苑!ミラは!」
「こっちだ!すまない…。」
「?」
ケイゴが部屋へ入ってくる。服を整えたミラが寝息を立てて眠っている。
「ミラ…良かった。ありがとう。」
ケイゴはミラに縋る様に対峙しながら、紫苑にお礼を言う。
「…いや、話さなきゃいけない事がある。」
紫苑の顔が暗い。気まずそうな顔から、何かあった事を察する。それは紫苑の従姉妹の家にミラがいることからも感じた。




