事件のオープニングはいつも良い事があった後5
男達の聞くに耐えない言葉の数々に恐怖したミラ。震えそうになりながらも何とか足を進める。
「ここだ。お前は今日から1347番だ。」
「話を聞いて下さるのでは?」
「許可なく喋るのは規律違反だ。5点減点。」
(何と理不尽な。こうやって囚人をいじめるのね。)
「さぁ、まずは身体検査だ。服を脱げ。」
「えっ!」
「黙って脱いだ方が身の為だぞ。」
ミラは意を決する。来ていたドレスをごうとする。しかしドレスは着付けてもらう物。ドレス用のコルセットも自分では着脱出来ない。
「あの、話しても?」
「ああ。許す。」
「脱ぎ方がわかりません。手伝ってもらえますか?」
刑務官は驚いた顔をする。もちろん男だからドレスの着付けなんてした事がない。
「色仕掛けは俺には通用しない。」
「服を脱げと言ったのは貴方です。ドレスは1人では脱げません。」
ミラは後ろを向く。
「後ろがどうなっているのかさえ、分からないんですから。」
後ろは美しく編み上げられており、難しい構造だ。騎士隊長が困っているとメイドが声を掛ける。
「騎士隊長様、上よりこの娘を連れてくる様に仰せつかりました。」
「そうでしか、では。」
ミラの枷に付いている紐をそのメイドに渡すと、メイドは冷たい目でミラを見てから引っ張って行く。
連れてこられた部屋は豪華な部屋だった。
「お嬢様、連れて参りました。」
「ご苦労。」
そこにいたのはA国の公爵令嬢。
「貴方がケイゴ様や明様を毒殺しようとした卑しい女ね。ケイゴ様に相手にされないからって殺そうとするなんて、本当にイカれてるわね。」
ミラは公爵令嬢を見据えたまま何も言わない。そんな様子に苛立ち舌打ちをする令嬢。それを見てメイドが慌ててミラの髪を掴みひざまづかせる。
「申し訳ありません!お嬢様。」
「裸にしなさい。」
「はい!」
メイドは今度は髪を引っ張り立たせると、そばに控えていた他のメイドも混ざりミラのドレスを無理やり脱がしていく。あっというまに全て脱がされドレスの下着とガーターベルト付きストッキングのみになる。
「ふふっ。私のケイゴを寝取った罰よ。」
ミラは冷めた目で令嬢を見据える。
「なによ。恥ずかしくて何も言えない?」
令嬢は鼻でミラを笑う。一方ミラは口腔内の爛れの痛みで妙に冷静な頭となっている。
「気に入らないわ!その目がムカつくのよ!早く全て脱がせなさい!」
「はい!」
ミラをガッツリ取り押さえコルセットが外される。その体を見て令嬢は賤しい笑みをする。
「こーんな貧相な体でケイゴ様に愛されようとしていたの?それともケイゴ様は特殊な性癖なのかしら?」
「…。」
「どうやらKAHO家に住んでるからその娘と結婚せざるを得ないっていう噂は本当の様ね。ケイゴ様が可哀想だから、貴方には死んでもらうわ。」
するとメイドが令嬢に短剣を渡す。
「あの毒で死なないんだもん。しぶといわねぇ。ケイゴ様の幸せに、貴方は邪魔なのよ!」
剣を構えたその時である。
「どけ!俺はあの女を許さない!」
叫ぶ声が聞こえドアが蹴破られる。その物凄い音に室内にいた全員の動きが止まる。
「お嬢!」
ケイゴはすぐにミラが何も着ていない事に気づき殺気を濃くする。その様子に部下が恐怖する。
「お前らは外へ出ろ。見た者は全員殺す。」
「!!はい。下がれ!」
「ケイゴ様!怖い顔をなさってどうされたのでしょう?今私がミラを排除致しますわ。」
そう言っている間にケイゴはさっと令嬢に近づき首に暗器を突き立てる。ツーっと赤い血が滴る。
令嬢は何が起きたのか分からず、茫然としている。
「お前が死ね。」
いつものケイゴよりも低くドスの効いた声が響く。
「な、えっ?ケイゴ様?私と結婚なさるのでしょう?何を…?」
ケイゴは一瞬冷たく笑うと暗器を更に強く押し当てる。
ミラはケイゴが本気で令嬢を殺そうとしていることを理解する。
「ケイゴ!私は大丈夫ですから、令嬢を放しなさい。」
「…何も大丈夫じゃないだろ!貴方は尊厳を奪われた!」
「この方に私の尊厳を奪うことは出来ない!何も着ていなくても私は私よ!命令です!手を離しなさい!」
「例え命令でも従い兼ねます。」
「ケイゴ!貴方の手はそんな事に使うものじゃ無いわ!いつも私を守ってくれるための手じゃない!お願いだから、そんな事に使わないで!」
「…分かりました。」
ケイゴが手を緩めると、腰を抜かした令嬢が床へへたる。ケイゴはそんな事はどうでも良さそうにミラへと近づき、自分のマントをミラの体に巻きつけお姫様抱っこをする。
「きゃっ!」
「大人しくしてください。見えてしまいますよ。」
「(//∇//)」
ミラは大人しくケイゴの首に両腕をまわして抱きつく。
「入れ!」
ケイゴが合図をすると中に近衛兵団が雪崩れ込み、令嬢や周りのメイドを捕獲していく。
「私は公爵令嬢よ!近寄らないで!身分の卑しい!」
「黙れ!全て聞いた。毒を盛ったと自供したな。王族殺害未遂の容疑で連行する。」
「なんでよー!離しなさい!」
令嬢は髪を振り乱しギャーギャー喚く。公爵令嬢の威厳はもう何処にもない。
ケイゴは令嬢が捕縛されたのを横目にスタスタとミラを抱えたまま歩き出す。
「後は頼んだ。」
「はい。畏まりました。」
***ケイゴの為に用意された客室
そっとベッドの上に降ろされる。
「すぐにタミさんを呼びます。新しい服も。」
「…ケイゴ、ありがとう。マントを汚してごめんなさい。」
「汚れてなどいません。それより…。」
ケイゴはミラの格好を見て悲しそうな顔になる。
「助けに来てくれて嬉しかった。」
ミラはケイゴに抱きしめて欲しかったが、ケイゴはすぐに離れて後ろを向く。
「当然のことをしただけです。」
ミラはケイゴのマントを無造作に抑えながら背を向けているケイゴの背中にくっつく。ケイゴは後ろを向いたまま目を見開く。
「…好きです。貴方が。私の為にいつも色々してけれる貴方も。私の為に手を汚そうとした貴方も。私が貴方を嫌う事も、怖がる事も無いから。だから恐がらないで。」
その言葉にケイゴはやっと振り向く。その顔は今にも泣きそうで。そんなケイゴにミラはフワッと微笑んで、ピッタリとくっつく。ケイゴも自然と抱きしめていた。
しばらくして少し力が緩まったケイゴを見上げると、目を逸らされる。心なしか紅くなっている様な?ミラは首を傾げる。するとケイゴはミラが羽織っているマントをギュッと集める。
「お嬢、肩(と胸)が見えてますよ。それに脚も…。」
そう。マントの隙間からガーターベルトで止められた大腿が出ている。普段から自制しているケイゴとして堪らない。
(タミさん!早く来てくれ!)
コンコンコン。
心の声が聞こえたのか、ノックの音がする。ケイゴは一瞬安堵するも、誰も呼んでいない為また警戒する。
「お嬢、ベッドに隠れて下さい。」
「うん。」
素直に毛布を被るミラを見てから扉を開ける。
「ケイゴ!大丈夫か!?ミラちゃんは?」
そこには心配した紫苑と美琴、そしてタミさんだった。ケイゴは今度こそ警戒心を解き微笑んだ。
「タミさん、ミラに新しい服を。お風呂を作って貰いますから。」
「分かったわ。」
ケイゴは2人を無視してタミさんだけに話しかけ中に入れると、自分は外に出て歩き出す。
「ミラは今から入浴だ。覗くなよ。」
「(//∇//)覗かねーよ!そんなに飢えてない!」
美琴が慌てる。紫苑はそんなやりとりを見て、ミラが無事だったと安心する。
「僕の部屋へ行こう。」
皆んなで紫苑の部屋へ向かった。




