事件のオープニングはいつも良い事があった後4
「亜月様…ミラは?」
「まだ目が覚めない。」
「毒を盛られたって…。」
「…あぁ。」
「なぜミラが狙われたんですか?」
「…狙われたのがミラとは限らない。誰もが食べられるお菓子に混入していたんだからな。それよりも俺が心配なのは…。」
「???」
明は後に続く言葉を想像できず首を傾げているが、ケイゴはその様子を見ても説明しない。しかしすぐにケイゴの言わんとしていた事を知ることとなる。
急に廊下が騒がしくなる。その音にケイゴはミラを見つめながら表情を厳しくする。
「待って下さい!まだミラちゃんは目覚めていませんし、彼女が犯人だとも決まっていません!」
「そうです!もしミラちゃんが毒を盛った張本人だとしたら、あまりにも分かりやすすぎではないですか!誰かが混入させたと考える方が賢明だと思います!!」
騎士たちを追いかけながら紫苑や美琴が必死に説得している。
「そうかもしれないが、まずはKAHOミラに話を聞くのが筋でしょう。その為に身柄を抑えさせて頂きます。」
「彼女はまだ目覚めていません!せめて目が覚めてから改めていらして下さい!」
「そんな猶予は無い。狙われたのは国王様や明王子様かもしれないんだ。その嫌疑が掛かっている者を野放しには出来ない。」
「だから意識が無いんですから、どこにも行けません!」
「運び出すことはできますよね。これ以上邪魔なさるなら、お二人といえど捕縛させて頂きます!我々は王命で動いているのですよ!」
「「…!」」
その言葉に2人は足をとめる。騎士隊長はそんな2人を睨み廊下を進んで行った。
「僕たちでは止められない…。」
「ああ…。」
***
バン!
突然大きな音がして扉が開く。しかしケイゴも明も驚かなかった。既に廊下での押し問答がよく聞こえていたからだ。びっくりしたのは騎士隊の方だった。騎士隊張も一瞬驚いた顔をしたが、王子2人にひざまづき話し始める。
「申し上げます!ケイゴ様、明様、この者を───」
「喋る事を許していないが。」
ケイゴは騎士隊長を見ずに冷たく言い放つ。
「…申し上げてもよろしいでしょうか。」
「許さない。」
「ケイゴ様!!!不敬罪だとしても、我々は王命でこちらに参りました!KAHOミラをお渡し下さい。」
「なぜだ。」
「王族殺害未遂の嫌疑が掛かっております。」
「渡さない。彼女は1週間前に招待状が届いて、慌てて準備をしたんだ。しかも手作りの菓子を持って来いなんて、そんな招待状がそもそもおかしいだろ。昼間のうち内の茶会ならまだしも、王族主催の正式な夜会だぞ。」
「元々いつかの為に毒を用意していた可能性もあります。」
「彼女に毒物を入手するツテは無い。」
「ある事は証明できても、無いことの証明はできるのでしょうか?」
「…。」
「でもミラは自分でお菓子を食べたし、俺にクッキー食べさせなかったよ!」
今度は明が弁護する。
「明様…。自作自演で自らに嫌疑が掛からない様に被害者を装った可能性もあります。」
「でもそうなら、オレのクッキーまで叩く必要は無かったはずだ!」
「標的があなた様ではなかったからでは?」
「じゃぁ誰なんだよ!証拠はあるのか!」
「それを調べる為にKAHOミラの身柄を抑えに参ったのです。」
そんな話をしていると、ミラがゆっくり目を開ける。ケイゴは嬉しく思ったが、表情を固くせざるを得なかった。
「絶対にミラを渡さない!!ミラは毒を盛る様な子じゃ無い!ミラは優しくて穏やかなんだぞ!」
「明様、そんな心象は証拠にはなりません。我々がしっかり調査しますから、身柄をお渡し下さい。」
「でも!」
「これ以上抵抗される様でしたら、お二人もお連れする事になります。」
「お待ち下さい。」
その時ミラが口を開く。ゆっくり体を起こして騎士隊を見据える。
「お嬢!」
「ケイゴ、明君、これ以上迷惑はかけられないわ。大丈夫!私は何もしてないから、すぐに証明されるわ!」
「お嬢、なりません!罪をなすれつけられてしまいます!」
ミラはフワッと笑う。
「大丈夫!私は人の良心を信じてるわ。だからすぐに釈放されるから!」
「でも!」
「ケイゴ、貴方のご家族よ。だから大丈夫。どうぞ、お連れ下さい。」
ミラは立ち上がろうとするがフラッとしてしまい、ケイゴに支えられながら歩き出す。
「ミラを連れてくなら、俺も連れて行け。」
ケイゴは冷たく騎士隊を睨む。その顔はやはり裏の人間チックであり、殺気を感じた騎士隊長は、大人しくケイゴも一緒に連れて行く事にした。
皆んなが歩いていく背中を見ながら明は王宮に向かった。
***
「ケイゴ様、ここから先は貴方はお入りになれません。」
「俺も一緒に牢屋に入る。」
「ケイゴ!だめよ!貴方は王族の血を引いてるんだから、ちゃんとお部屋に戻って。」
「俺は既にKAHO家を選んでいます。だから貴方がいるところが俺のいる場所です。貴方が王宮にいるなら王宮が、貴方が牢屋にいるなら牢屋が俺の居場所です!」
「ケイゴ、それはワガママというものだ。」
後ろから声をかけられる。振り向くと国王だ。
「久しぶりだな、ケイゴ。私の元へ帰って来てくれて嬉しいよ。」
「違います。俺はお嬢について来ただけです。言いましたよね、お嬢に手を出したら手加減しないと。」
「勘違いしないでくれ。手を出したのは私では無い。だが…私なら助けられるがどうする?外交問題にはしたく無いだろ?」
王は含みのある笑みを見せて体を翻し歩き出す。ケイゴは強く王の背中を睨みつけ、後について行く。ケイゴの姿か見えなくなった途端、ミラは手枷と足枷がつけられ「来い。」と引っ張られながら、牢屋に入れられた。他の囚人の前を通るたびに何やら言葉が聞こえてきた。
「おー女だー。」
「相手して欲しい。」
「久しぶりに暴れてやるか!」
「楽しませてあげるよー。」
そんな聞くに耐えない言葉の数々に恐怖したミラ。震えそうになりながらも何とか足を進める。




