事件のオープニングはいつも良い事があった後3
今ちょっと仕事が立て込んでおりますので、考える余裕がありませぬ。
ミラがドレスを翻して駆け出す。周りはその行動に驚くが、『令嬢が慌てて走る』という行為に嘲笑する。ケイゴは咄嗟にミラを追いかける。蔦の様に腕を絡ませていたパートナーである女が尻餅をついた事には興味が無かった。
後ろで「ケイゴ様!待って下さい!ケイゴ様!」と叫ぶ声は、全く耳に入らない。
(会場は紫苑や美琴が何とかしてくれるだろう。それよりミラだ。)
普段おっとりしているミラだが、火事場の馬鹿力だろうか、こういう時はやたらとすばしっこい。明のクッキーをはたいた時も的確にクッキーだけを撃ち抜いており、クッキーは粉々になったが明は打撲しなかった。そして今も廊下には既にミラの姿は無く、どこへ行ってしまったのか。
ケイゴは1番近くのトレイに向かうと、そこにはグッタリしたミラが血まみれで倒れていた。
「ミラ!ミラ!ミラ!」
「どうかされました──ひぃ!!」
バトラーが声を掛けながらミラを見て驚く。
「医者を!」
「は、はい、常駐しております。連れて参ります!」
「いや、案内しろ!俺が運ぶ。」
「えっ!」
「早く!」
「はい!」
ケイゴは血で汚れるのも構わずミラを抱き抱え、医務室まで走る。その間も声をかけつづけるが反応は無く苦悶様表情だ。
「こちらです!」
既にインカムで話を通してくれていたおかげですんなりとベッドに案内してくれる。すぐにバイタルを取られ対光反射なども見ている。暫くしてケイゴが呼ばれる。
「毒による中毒症状かと思います。口の中がかなりただれていまして、そこから出血しています。食道や胃は少量の摂取だった為か無事です。現在胃を洗浄しているところです。因みに倒れられたのは血管迷走神経反射でしょう。極度の緊張状態で倒れてしまわれたのでしょう。」
「毒…。」
「ええ。触るだけで皮膚炎を起こす様な毒のようです。」
******
一方、ケイゴがミラを追いかけて出て行ってすぐ。会場では紫苑と美琴が事を収める為に動いていた。
紫苑は近くのバトラーに声を掛ける。
「ここは危ないですから、他のお部屋へ皆様を移動された方が宜しいかと。明君も怪我は無い?」
明はミラに叩かれた手を見ながら固まっているが紫苑の声を掛けられて我に返る。
「…大丈夫、です。それよりミラは!?」
「あんた、自分を庇ってくれたとでも思ってんの?あの女に叩かれたのに。不敬罪で死罪もあり得るわよ。」
そんな発言をする公爵令嬢を睨みながら椅子から立ち上がる。
「ミラは何も無くてあんなことはしない。何か理由があるんだ。」
そこに大きな声が掛かる。
「皆様、他の会場のご準備が整いましたので、そちらへお移りください。順番にご案内させて頂きます。」
「さぁ公爵、お嬢様、こちらへお越し下さい。」
令嬢はケイゴを探すがやはり見つからず、不機嫌そうな顔でその場を後にする。他の者も徐々に移動していく。
「本来は明様にまずご移動いただきたのですが…。」
「ミラのところに案内しろ。」
「…畏まりました。」
***
ケイゴはミラの傍に座っている。まだ目の覚めないミラに不安が募る。
「本当にめざかめるのか!?くっ!」
ミラの顔は未だ青ざめている。そこへ明がやってくる。
「亜月様…ミラは?」
「まだ目が覚めない。」
「毒を盛られたって…。」
「…あぁ。」




