姿勢体験学習6
「ねぇ、ケイゴのはどこで実習したの?」
ミラとケイゴは海の家へ戻りながら手を繋いで歩いている。
「あぁ、俺ですか?俺の時代は無かったんですが、近いのが職場体験ですね。その時は学校側がアポを取った所に行きましたよ。俺は大学部でした。」
「大学部?」
「えぇ。俺は教員志望だったので、行くとしたら学校なんですけど、運良く希望が重ならなくて。」
「そうなんだぁ。ケイゴの時代も成果とかあったの?」
「特にはありませんでした。俺の時は純粋に職場体験だったのでふつかかでも折角だから成果を上げましたよ。」
「へー。何したの?」
「コレですよ?」
ミラはケイゴの視線を辿る。
「?岩?」
「いや、岩ではなく(^◇^;)市井学習の制度です。」
「ん???」
「俺が作ったんですよ、この制度。くじ引きで行き先を決めて、自分でアポ取りからトラブル解決まで行うプログラム。考えたのが俺です。」
「えぇー!」
「大人になったら否応なく放り込まれる社会を、少しでも経験できる機会があればいいなと思ったんです。社会にでたら間違いは許されません。でもその経験は必要なものです。だから俺は安心して失敗や間違いが出来る場所をつくりたかったんです。」
ケイゴは夢を語る男の顔をしている。
「…。かっこいい…。すごいね!まさかケイゴが作ったシステムだったなんて。今や伝統だもん、本当にすごいよ!反対されなかったの?」
「後輩からこのシステムなので、不満はあったと思いますよ。レポート提出必須になったし。でも俺の耳には入りませんでした。その時俺は既にKAHO家の人間だとばれてましたので、誰も意見出来なかったのでしょう。それに、保護者からは人気が高いみたいですよ。やっぱり保護者は一度は他企業で経験を積んで欲しいと思いますからね。それにコンセプトが『いっぱい失敗しよう』ですから。失敗から学んだ事をレポートにまとめたら良いので。」
「そっか。」
「外へ出て初めて自分や家業を俯瞰して見ることが出来たりしますし。上手く適応できた人達はそういう視点でレポートを書く人もいるそうです。成果については、本来は必要の無いものです。そもそも成果とは後から付いてくるものですから。でも、お嬢みたいに企業の事を自分なりに考えてやってみるというのも、いい経験になったのではないですか?」
「うん、そうだね。凄く悩んだし難しかったけど、今後に活かせそうだと思った。」
ケイゴは優しく笑う。
「そもそも提出するレポートも形式を問われて無いのは、自分なりに作成した資料を出せる様にです。レポートを形式に従って何枚も書くのは大変ですから。お嬢の場合、プレゼン資料とやってみての結果と考察さえあれば問題なくパスできる筈です。」
「結構寄り添って考えられてるプログラムなんだね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
(ケイゴは時々知らない人みたいな顔をする。清涼感のあるような、でもどこか憂いを帯びたような。)
「それよりも、俺がプレゼントしたラッシュガードとパレオはどうでしたか?」
質問だけど質問じゃない言葉をケイゴのは口にする。
「あ、ゴミを運んでて汚れちゃって。水着じゃ仕事しづらいだろうからって、お店の人が買って来てくれたの。」
「知ってますケドぉー。」
ケイゴは低い声でちょっと拗ねた顔だ。
「嫌ならすぐ脱ぐよ?」
ミラはラッシュガードのジッパーを下げながら言う。
「ちょっと待って下さい!脱ぐ方が危険です!拗ねた俺が悪かったです、どうか着て下さい!!…どうして女性は水着は平気なんでしょう。下着と布の面積は変わらないのに、なんで平気なんですか?」
「そ、そんな事言われても(^◇^;)水着は外に着る物で、下着は中に隠して着るからじゃないの?概念の問題よ。でも、恥ずかしくても好きな人には見せたいって思うのはどっちも一緒ね。」
ミラは紅くなりケイゴにチラッと視線を送ってはにかむ。
「なら俺にだけたくさん見せて下さい。」




