夜会4
ちょっとテンポが悪いですかねぇ?もう暫くお付き合い下さい。
「亜月ケイゴからKAHOのお嬢様を遠ざけろ。」
それが私ジーク・ラングルの仕事だ。依頼主は彼のA国王様。私は基本的に工作員として各国を回っているが、直接ハニートラップをかけるのは初めてだ。
まぁ、私の顔と地位が好きと言って近寄ってくる女はたくさんいるから、他国のお嬢様など簡単に攻略出来るだろう。案の定偶然を装って声をかけると、ホイホイ付いてくる。警戒している感じは全く無い。
このKAHOのお嬢様は、危機管理能力が低いのか、スキだらけだ。その証拠に口の隅に口付けしても怒らない。
クリームを取ったと言ったら、キスされたくせに素直にお礼を言う始末だ。コレなら攻略も簡単そうだ。
「ミラ嬢、良ければ別室でもっとケーキの事を教えて頂けませんか?」
「喜んで!」
(ケイゴ!やったよ!お客様が増えるかもしれないよー!)
ミラはケイゴの言いつけを守らずまたしても知らない人に着いて行ってしまった。
***
別室に移ってから既に50分が経過しようとしている。あんな事言うんじゃ無かったと、今更ながら後悔している。何故ならミラがケーキの事について本気で語り出したからだ。ケーキの事だけならまだ良い。少し前から、オリジナルドリンクや取り扱っている紅茶まで派生している。
(茶葉がどうとか果物がどうとか、本当にどーでもいい。早く終わらないかなぁー。)
随分前から目が虚になっていたジークに、ミラは全く気づいていない。ケイゴのお店の話は、ミラ自身の喜びでもあるからだ。しかし、全く話が途切れないミラにジークはうんざりしている。でもポーカーフェイスを崩す程バカじゃ無い為、そのまま笑顔で聞き流す。その表情に素直に騙されているミラは、勘違いしてしまっていた。
(こんなにじっと笑顔で聞いてくれるなんて、相当ケーキが気にいったんだ!)
正直、例え初対面の人であっても、ジークが話に疲れているであろう事が分かるレベルには、目が遠いところを見ている。それに気づかないのは、ミラが鈍感なのか、それともポーカーフェイスの作り方が上手いのか。
「ーーーで、このケーキにはオリジナルブレンドの紅茶がーーーー。」
「ミラ嬢!」
自分が思った以上に大きな声を出してしまったジークに、ミラも一瞬だけ肩をすくめて驚き、少し気まずくなる。
「あっはい、何でしょう?」
ジークは一つ息を吐いてから話し始める。
「ケーキや紅茶のお話し、とても参考なりました。もう充分楽しみました。」
『充分』を強調する。
「もっと他の話もしませんか?」
L字に座っていたジークは、妖艶に微笑み、ミラの頬を撫でる。その手の優しさにミラは「はっ!」とする。
「もしかして…。」
ジークは更に笑顔を深める。
「もしかして…またクリーム付いてましたか!?」
「………へ?」
ミラは慌てて触られたところをナフキンでゴシゴシする。まるでジークに触られた箇所が不潔とでも言うかの様に。
「さっきもクリーム付いてましたもんね。ありがとうございます!」
ミラはニコニコ笑顔だ。
ドンドンドンドン!!!
けたたましく扉がノックと言うには強すぎる音で叩かれる。ミラはビックリしつつも解錠し、扉を開ける。
「はい、何かあっ…ケイゴ?」
「お嬢様!!!」
ケイゴは焦った顔でミラを抱きしめる。
「何かあったの?」
「はい、人が攫われました。」
「えっ!!!誰が攫われたの!?」
ミラの肩に顔を埋めながら答える。
「俺の大事な人です。」
「えっ!早く助けなきゃ!」
「はい、本当に。」
「監禁場所は分かってるの?」
「はい。」
「じゃぁそこに行きましょう!」
「…貴方はいつも危ない所に行きたがりますね。」
「例え危なくたって、ケイゴの大切な人の為なら何だってするわ!!」
「発情したオオカミがいるんですよ。」
「!!オオカミ!まさか海外なの!?」
「A国のオオカミが入って来たみたいで。」
「杜撰な管理ね。早くしないと、その方が食べられちゃうわ!」
ケイゴはミラの肩口にA国の発情オオカミ(ジーク)を睨む。
「お嬢様、俺はその発情オオカミと飼い主にお灸を据えたいと思いますので、先に行ってて下さい。」
「?うん、分かった。」
ケイゴはやっとミラを放し、ハリス家の護衛に渡す。ミラが出て行くと、さっきより禍々しい殺気を放ち出す。大人しく様子を伺っていたジークは、脂汗をかいている。
「お前、何してる。」
ケイゴの恐ろしい声が響いた。




