夜会3
綺麗なメロディが流れ出す。大勢の人々がダンスを始める。今日は公式では無いので、ファーストダンスから自由に誰とでも踊って良いし、身分関係無く踊って良い。
普段は家柄を気にして踊れないご令嬢も、紫苑や美琴、ケイゴとのダンスの機会を伺っている。ミラはその3第人気者に囲まれており、見目麗しいお嬢さま方の尖った視線が、心臓をおかしく拍動させている。
「私、ちょっと風にあたりにーーー」
ミラが言いかけると、美人がケイゴの後ろから話しかける。
「亜月様、どうか私と踊って頂けませんか!」
初めて見るご令嬢だが、ケイゴは知っている様だった。
「片浜嬢、お誘いありがとうございます。せっかくですがーーー」
「どうぞ!お引き止めして申し訳ありません!」
ミラはケイゴの背中を押す。ケイゴは「は(-᷅_-᷄๑)?」と怖い顔で見てくる。
「レストルームに行って参ります!」
ミラは逃げる様にその場から離れる。
「離れるなって言ったのに、また変な気を回して…。」
そう小さく呟く。ご令嬢に腕を掴まれているケイゴは、無碍にすることも出来ず、パーティーに紛れていたハリス家の護衛に目配せする。ミラのこういう時の逃げ足は相当速い。無駄な特技だ。
ミラはケイゴに捕まらない様に人混みに紛れながら進んだ。フッと振り返ると、ダンスの為に中央に歩くケイゴとご令嬢が見え、ミラはホッと息をつく。
目の前には煌びやかなケーキが飾り付けられており、ミラは目を奪われる。
(うわー!美味しそう❤︎今日もciel RoZeのケーキだ!コレは新作かなぁ!)
「すみません、コレとコレと…コレをお願いします。」
「かしこまりました。お飲み物も如何でしょうか?」
「では柚子ハニッシュ(ciel RoZeオリジナルの柚子のハチミツ漬けを炭酸で割ったもの)を。」
「畏まりました。」
ミラは席を探すが空いていない。
「うーん…。」
「良かったらご一緒しませんか?」
そこへ男性が声を掛けてくれる。外人風の顔付きで、目の色が薄い青だ。吸い込まれそうなその青に、ブロンズの髪が映える。紛れもなく美青年だ。
「私はフリーですので、良ければ。」
「ではお言葉に甘えて。ありがとうございます。」
「美味しそうなケーキですね。」
「良かったら一緒に如何ですか?ciel RoZeのケーキはとっても美味しくてオススメなんですよ!!」
「ciel RoZeのケーキなんですか!?今とても人気ですよね。」
「ご存知でしたか!」
「はい。ではお言葉に甘えて。」
「こちらはイチゴのムースです。イチゴは有機農法の契約農家のもので、このソースは特に濃厚で甘酸っぱくて美味しいんです。甘いの物が苦手な方でも、さっぱり食べられます。こちらのシフォンケーキも拘りがあって、フワフワの生地は卵の風味がとても豊かなんです!更にこの生クリームも甘さ控えめでーーー」
言いかけた時、相手のビックリした顔が目に入り、喋りすぎた事に気付き急に恥ずかしくなる。そんな様子に男性は綺麗に笑う。
「ハハハ!あっ失礼しました。あまりにも真剣で可愛らしく感じたものですから。」
ミラは頬を隠しながら謝罪を口にする。
「喋り過ぎてすみません…。」
「いえ、とてもお好きだと伝わって来ました!」
「えーっと…。」
「ではこちらをいただきます。…成程、コレは美味しいですね!」
ミラは笑顔を返すに留める。
「あっ!私ハナミネ ミラと申します。」
「申し遅れました、私はジーク・ラングルと申します。ジークとお呼び下さい。」
「ジーク様は踊られないのですか?」
「私はダンスが苦手でして(^◇^;)」
「そうなんですね。では私と一緒ですね!」
「ミラ嬢も苦手なんですね!」
「えぇ。お相手の足を踏み固めてしまいます。」
(踏み固めるって面白い表現だな。)
「それは被害者が出なくて良かったですね。」
「えぇ!本当に。」
そんな軽口を叩いていると、ジークがミラを見つめる。
「どうかされました?」
「口の端にクリームが付いてます。」
ナフキンで拭ってみる。
「取れましたか?」
「いえ?まだ付いてます。」
ミラはもう一度口を拭う。
「どうでしょう?」
するとジークはクスッと笑ってミラのナプキンを持って近づいてくる。そして…チュっと口の端に口付けられる。ミラは呆然としてしまう。そしてワンテンポ遅く反応する。
「っえっ?えっ?えっ?な、何…?」
当のジークはイタズラっぽくウィンクしている。
「クリーム、取れましたよ!」
「…あっ、ありがとうございます…。」
ジークがごっつい普通なので、ミラも他意は無かったのだと思った。




