夜会2
「お嬢、行きますよ。」
仏頂面でも取り敢えずは手を差し出してエスコートしてくれようとするケイゴ。ミラは手を出そうとするが、一瞬躊躇する。その瞬間扉がノックされる。
タミさんが迎え入れると紫苑さんだ。
「ミラちゃん、そろそろ時間だよ。」
ケイゴの手を取ろうか悩んでいる手を見た紫苑は、優しく微笑む。
「ケイゴの手を取るのが嫌なら、僕がエスコートしようか?」
言うが早いか、ケイゴはミラの手を掴んで引っ張って行く。その様に紫苑はクスクス笑う。それをひと睨みしズカズカ歩くケイゴ。ミラは慌てて着いていく。
「ケイゴ、ごめんね。私といるのイヤだよね…。」
「…違います。嫉妬しただけです。」
「っえ!?嫉妬?ケイゴが?誰に???」
ケイゴはジト目で見てから視線を外す。
「…言わせないで下さい。ミラにはよく見せたいんです。…朝はすみませんでした…。」
「私こそごめんなさい。注意しろって言われてたのに…。」
「いえ。でも外出する時はちゃんと俺に言って下さい。…俺に守らせて下さい。他のヤツに任せたく無いんです。」
「はい。」
ミラは紅くなる。後ろから着いてくる紫苑は眩しそうに2人を見ている。
(いいなぁ。僕にもミラちゃん以上に好きになれる子ができるんだろうか…。)
会場へ到着する。主催者である紫苑が入場すると、拍手に包まれる。この夜会は昨夜とは違い、内うちのもので、パートナーは同伴しなくても良いため、紫苑はフリーだ。瞬く間にお嬢様方に囲まれている。
ケイゴもパートナーは居るが挨拶周りの紳士方に囲まれてたじろぎ逸れてしまう。
(デジャブー!)
人の波に押されて人にぶつかってしまうミラ。
「すみません!」
ふと顔を上げると
「あれ?ミラ?」
「翔くん!紫苑様と仲良しなの?」
「え?いや、俺は仕事として来たんだ。」
「?仕事?」
「レンタルはパーティーのパートナーを務めることもあるんだ。男はそうでも無いけど、やっぱり女性はひとりって訳にも行かないだろ?」
「…私は1人でとこでも行くけど。」
「ハハ!お嬢様はそうはいかないんだよ。」
「へー。そんなんだぁ!」
「ミラも誰かと来たんだろ?ってか、ハリス様と知り合いなの?」
「うん。紫苑様と共通の知り合いっていうか、その人の友達が紫苑様だったんだぁ。」
「そうなんだ。ミラにもお金持ちの知り合いがいたなんて知らなかったな。」
「そうだね。最近(?)社交界に連れてってもらうようになって。」
「…そういうヤツと付き合ってるってこと?」
「うーん、社会勉強みたいな感じ!」
「へー。それにしては良いドレスとアクセだね。」
「なんか用意してくれてて。」
「へー。結構好かれてんじゃん。」
「そうなの?」
「そうなの?って…相手の人が可哀想。もしかして年上?」
(社会勉強させる為に、こんないいドレスとアクセサリーをシレっと用意するなんて、金持ちの親父か?)
「よく分かったね!」
「こんなものを社会勉強でプレゼントできるなんて、相当な金持ちだな。」
「あーそうかも。お店経営してるし。」
「へー。そんな事より、何で連絡くれないの?俺待ってたのに。」
「あーごめん。ちょっと忙しくて…。」
「そっか。なら俺に連絡先教えてくれる?」
「うん。いいよ!」
「じゃぁ、あっちで。」
手を引かれて休憩室に行こうとすると、反対の手を後ろから掴まれる。
「ミラ、何処に行くつもりですか?」
ケイゴはミラでは無く後ろの男に視線をやっている。その眼は明らかに怒気を含んでいる。
「亜月様!え!ミラ、亜月様と知り合いなの?」
「ミラ(-᷅_-᷄๑)?」
翔真がミラを呼び捨てで呼んだ事に苛立って聞き返すケイゴ。
「君は佐久間家の3男の…?」
「亜月様の様な方に知って頂いているなんて、光栄です!あまり仲が良く無いのに。」
「対立派閥の把握も仕事の内ですので。それよりお嬢様の手を放して頂けますか?」
「あ、はい。えーと、ミラとはどう言ったお知り合いなんですか?」
「ミラ?(-᷅_-᷄๑)」
また不機嫌に聞き返す。翔真は慌てて言い直す。
「ミラさんとはどういったお知り合いですか?」
「お仕えしているお嬢様です。」
「………?あー!ミラさんがKAHOのお嬢様の知り合いなんですね。」
「違います。KAHOのお嬢様がミラ様です。私はミラお嬢様に仕えています。」
「………。」
翔真は固まっている。
「…え…?ミラが?KAHOのお嬢様…?」
「ミラ?-᷅_-᷄๑)」
ケイゴがまた呼び捨てにら苛立って聞き返す。
「あっ!ミラ様です!!」
「ケイゴ、翔くんは私の事を知らないんだから、怒らないで。」
「コイツですか?お嬢にレンタル彼氏を勧めた不届者は。」
ケイゴは不穏な空気だ。
「えっ!あ!勧めた訳ではありません!ただ久しぶりだったので名刺をお渡ししただけでして!」
焦って言い訳する翔真。
「お嬢様には、未発表ですが正式な婚約者がおりますので、近づかないでいただきたいです。」
殺気が漂っているケイゴを見て、ここは退散した方が良いと感じた翔真は、「そろそろパートナーが戻ってくるので」と逃げながら告げて消えていった。
「正式な婚約者って…。」
「もちろん俺の事ですが何か?」
「わ、分かってるよ!そうじゃなくて、言って良かったのかなって。」
「どの道俺が卒業したら発表されるんです。問題ありません。」
「そっか。」




