過去遍4〜ミラとケイゴ〜
「お嬢様、最近食べる量が減ってますよ。みんなも心配してますから、食べて下さい。」
「…お腹が空かないの。ていうか、すくんだけど入らないの。」
「今日はお嬢様が食べやすい様にポタージュとニョッキにしてみました!頑張ってみましょう。」
「…うん。」
ミラは最近ご飯を食べない。食べても吐いてしまう。でも元気に彼氏の家に行く。しかし日に日に顔色が悪くなる。
「お嬢、しっかり食べて下さい。最近顔色が悪いですよ。」
「…。食べたら太っちゃうの。先輩、太った子は嫌いなんだって。」
「!!もしかして、ソイツの為にダイエットしてるんですか!?」
「ソイツなんて言わないで。ダイエットはしてないよ。維持してるだけ。」
「そんな事言って。そもそもお嬢は太りにくい体質だし痩せ気味なんだから、食べても大丈夫ですよ!」
「彼の為に綺麗になりたいの。」
「お嬢!」
俺はお嬢の腕を掴んだ。その腕は元々細かったが更に細くなっていた。
「細!!」
「細くない。普通よ。」
「いや、俺の周りの女子はもう少ししっかりしてますよ!」
「ケイゴの周りの女の人なんて知らない。私の周りはみんなこんなもんよ。」
「お嬢!」
ずっと一緒に居たのにいつの間にかこんなに痩せ細ってしまった。その事に気づかなかった自分に苛立ち、つい大きな声が出る。好きな女がこんなに辛い思いをしていたのに。
ミラはケイゴの手を振り解いて部屋を出ようと素早く立ち上がる。その瞬間、頭が揺れたかと思うと、フッと気を失い倒れそうになる。
ケイゴはビックリするが反射的にミラの手を引き寄せ受け止める。ミラの体はズルズルと膝から崩れた。
「「「お嬢!!!」」」
みんなが駆け寄って来る。ミラは完全に意識が無く、すぐに知り合いの医者に来てもらった。
「お嬢は栄養失調です。何かありましたか?タミさん、ケイゴ。」
「…最近食事をあまり取ら無くなって…。太りたくないみたいで。頑張って食べても吐いちゃうんです。」
「…心の問題かもしれないね。あまり無理に食べさせず、好きなものを罪悪感無く食べられる様になると良いんだけど。しばらくは点滴とジュースで様子をみよう。」
「はい。」
「ケイゴ、君の力で食べさせられないの?」
「どういう事ですか?」
「お嬢は君が好きだろう。一緒に外食するとか。」
「…お嬢はもう俺をどうも思ってないです。野球部のヤツと付き合ってるんで。」
「そっか。…その人の為に痩せようとしてるんだよね。なら、その人に頼め。このままだとやばいぞ。 」
「…はい、分かりました。」
***
暫くしてミラが目を覚ます。
「う、うーん…私…。」
「お嬢、お加減いかがですか?」
「大丈夫よ。」
「少し顔色も良くなりましたね。」
「えーっと…。」
「倒れたんですよ。栄養失調だそうです。最近ダイエットしてたんですか?」
「…してるつもりは無かったけど、でも先輩が細い方が好きって…。」
「ご飯の量が急激に減ってましたね。だから倒れたんですよ。彼氏とは連絡つきますか?」
「…着くけど…心配させたくない。」
その言葉に苛立つケイゴ。
「本当に好きなら、すぐに駆けつけるはずです!」
「でも先輩を困らせたくないの。」
「それでも連絡すべきです。」
ケイゴは体を起こしているミラの両手を掴む。
「知らせるべきです!彼氏にはちゃんと知ってもらうべきだ!」
「………。」
「なら俺から連絡します。」
「ケイゴ、辞めて!…お願い。」
「…ならこのジュースを一先ず飲んで下さい。」
ミラはジュースを受け取り口をつける。
「!!あっま!…無理…飲めない…。」
どうやら物凄く甘くどいらしい。
「…増えちゃいますけど、牛乳で割りますか?」
「…うん。少しずつ飲む。」
その日は何とか流動食を飲んだ。
***
次の日、ケイゴはミラの彼氏に会いに、部活の終わる時間に学校の門に来ている。帰りの中学生にジロジロ見られるが、そういう視線には慣れている。
「あ、あのー、誰かお探しですか?良かったら案内します。」
「野球部のキャプテン知ってる?」
「は、はい!」
「連れて来れる?」
「はい!すぐに!」
女の子は目をハートにして去っていく。少しして、男を連れたさっきの女の子が戻ってくる。
「お待たせしました!」
「えっと…?どちら様?知らないんだけど。」
「ミラの保護者だ。」
「!!あー?ミラの?何ですか?」
「…ミラとはどういう関係だ。」
「は?あんたこそミラの何なんだよ。」
「保護者と言っただろ。それに俺が質問をしている。答えろ。」
「あぁ?」
その態度にケイゴは冷たく睨む。凄く怖い顔で。
(な、なんだこのイケメンは。めっちゃこえー!)
「…付き合ってます。」
「ふーん。じゃぁミラに痩せろと言ったのか。」
「あー、女で45kg以上はデブって言っただけです。」
「お前…。身長が158cmあったら標準体重は54kgくらいだ。こんな知識もない奴の為にミラは倒れたのか。」
「は?倒れた?誰が?」
「ミラがお前の不用意な発言のせいで栄養失調で倒れた。」
「…は。自己管理能力の無さを俺のせいにされても。」
それを聞いてケイゴの怒りは限界を振り切りそうになるが、ミラの為ここは堪える。
「兎に角一緒に来てくれないか?」
「何で俺が?」
「………そうか。ならもう良い。その代わり二度とミラに近づくな。」
「は?あんたに何の権限かあるんだ!」
「俺はミラの親から委託されている。もう二度と会わせない。」
ケイゴはそういうと立ち去る。
(何なんだよ、あの男は。)




