過去編〜ミラとケイゴ〜
二人はベッドに座っている。真綾は小学生の時から付き合っていた男がいた様だが、俺は初めて付き合った。もちろん女の家に行ったのも、体の関係になったのも。
「ケイゴ、来て…。」
絡み合う様にキスをして服をできる限り優しく脱がす。女の裸に興奮はするものの、それだけだった。
(俺は淡白なんだな。)
それから何度か真綾や他の女とも体を重ねたが、興奮以外の感情は感じられなかった。自分でするのと差して変わらない。***
高2の時に10歳上の女と遊んだ時のこと。
「ねぇ、今日はアレ無しでしない?」
「何で?」
「その方がケイゴも気持ちいし、やっぱり着けてる時少し冷めるし。」
女は恥ずかしそうに言うが、寧ろ俺の方が興醒めだ。この女は既成事実を作ろうとしている。結婚に焦っているのだろう。俺はただKAHOと関係の無い所で遊びたかっただけだ。
「子供ができたらどうすんの?俺まだ学生だけど。」
「私が養ってあげるから!」
適齢期の女は10歳も下の男とでも将来を考えるのか。
「子供と俺、二人養えんの?」
「ケイゴの為なら仕事掛け持ちしてでも頑張る!こんなイケメンの夫なんて自慢出来るし、子供も絶対可愛いもん!」
「ふーん。……帰る。」
ケイゴは乱れた着衣を整えて、さっさと帰ってしまう。
「何で⁉︎待ってよー!」
***
そんな乱れた生活をしていた高3のある日、タミさんに話し掛けられる。
「ねぇ、ケイゴ君。お嬢様に嫌われたく無かったら、そろそろ女遊びはやめた方が良いわよ?」
(あー、バレてたかー。)
「仕事はちゃんとしますのでご心配無く。」
「そうじゃ無くて。ケイゴ君、お嬢様の事好きでしょ?」
「………は?」
(お嬢を?俺が?あんなまな板のガキを?)
「まさか自分で気付いて無いの?」
「…何をでしょうか?」
「…今のは忘れて。違うんならその方がやっぱり良いと思うから。お嬢様にとっても。」
(俺がお嬢を?最近お嬢は俺を避け気味で、目が合うと赤くなって目を逸らすから、俺の事を好きなのはバレバレだけど…俺?)
あんな事を言われたら、気にせずにはいられない。
「ねぇケイゴ!聞いて!聞いて!」
「わっ!何ですか、急に!」
ミラが急に間近で顔を覗いてくる。
「ボーっとしてるケイゴが悪いのよ。それより聞いて!野球部の先輩に告白されたの!今度、試合見に行く約束もしたんだぁ!」
(はぁ?俺が好きなんじゃ無いんか!何だ嬉しそうに!!)
「行っても良いでしょ?もう約束しちゃったし。忙しいんなら、他の人を護衛に頼むから良いけど。」
「いえ、俺が行きます。」
「そう。じゃぁ宜しくね!あっ、先輩と二人になりたいから、邪魔しないでね!」
「何で二人になるんですか?」
「恋人とは一緒に居たいもんでしょー!察してよ!恥ずかしいじゃん(//∇//)」
(ん?恋人?)
「告白にOKしたんですか?」
「うん!だって嬉しかったし、先輩凄く大人で優しいから。」
ミラは紅くなりながら答える
(大人って言ったって、たかだか2つ上なだけだろ?俺の方か大人だっつーの!寧ろ精神年齢はお嬢と一緒だろ?まぁいい。お嬢の男を見てやる。)
***
「きゃー!先輩かっこいい!!」
先輩というヤツはピッチャーでキャプテンらしい。そしてモテている。ちょっとピッチング練習をしているだけで女子達からのこの声援だ。
ミラはピッチング練習をニコニコしながら観ている。すると先輩が気づいてミラに手を振る。その瞬間、再び黄色い声援で耳が痛くなる。
「きゃー!先輩がこっちに手を振ったわ!」
「センパーイ!!がんばってー❤︎」
「ヤバい!かっこいいー!」
そんな事を女子達は口々に言っている。一方ミラは目立たないようにしている様だ。しかしケイゴは気づいた。先輩の腕にミラが作ったミサンガがされている事を。当時ミラは流行りのミサンガをせっせと作っていた。勿論俺達も貰ったが、アイツ用は特に何回も作り直していた。俺にくれたのはその練習作。俺より上なんて気に食わん。
試合の後、ミラは自ら志願して片付けを手伝っている。少し前からサブマネージャーみたいなポジションになりつつある様だ。全く感知していなかった。
「ミラ、一緒に帰ろう。」
「はい!」
アイツは自転車を引きながら、ミラの横を歩く。俺は少し離れて他人を装いながらミラの後を付いて行く。だんだん虚しくなってきた。
(何が楽しくてラブラブカップルを尾行せにゃならんのだ!)
途中から物凄く帰りたくなったが、仕事だと言い聞かせてとにかく我慢しながら二人を追う。
「ミラ、ちょっとここ(公園)寄ってかない?」
「はい!」
ミラは全く俺を気にする素振りもない。
ミラとアイツは横に並んでベンチに座る。
「今日は来てくれてありがとな。あと、コレ(ミサンガ)のお陰で勝てた。ありがとう!」
「いえ、いえ。先輩の頑張りです!でも着けて貰えて、すっごく嬉しいです!」
「ミラちゃん…。」
アイツはミラと見つめ合い、そっと顔を近づける。
(あっ!おい!ちょっ!うちのお嬢に何してんだよ!離れろー!)
そう叫びたい衝動に駆られるがここは見守るしか無い…。
ミラは恥ずかしそうに顔を両手で隠す。めっちゃ可愛い仕草だ。好きな女にそんな事されたら誰でも我慢できないだろう。アイツは両手でミラの手首を掴み手をどけ口付けする。
その瞬間、絶望と悲しみと激しい怒りと深い嫉妬の念が湧き上がりおかしくなりそうになる。
(何だこの感情は。)
俺は未だかつて無い訳の分からない感情に立ち尽くすしか無かった。その後はどうやって帰って来たのかも分からない。気づいたら部屋でボーっとしていた。
コンコン
部屋がノックされる。
「ケイゴいる?」
お嬢だ。さっきの光景が頭から離れない。それと同時に激しい怒りが湧き上がる。
俺は部屋の扉を勢い良く開けてミラを部屋へ引っ張り込む。
「わっ!何?何?急に!」
ミラを無理やりベットに押し倒し、ぶつける様に唇を押し当てる。そして更に舌を強引に押し入れてメチャクチャに絡め取る。
ミラはとても苦しそうだ。途中から涙が次々と流れているのに気づくが、それ以上の怒りをミラにぶつける。そしてミラを睨みながら言い放つ。
「好きな男とキスしたその後で、好きでも無い男とキスが出来るなんて、最低な女だな。」
ミラは俺を見て泣きながら震えていた。更にメチャクチャに壊してやりたい衝動に駆られるが、激しいノック音で我に返る。
「おい!ケイゴ!お嬢!!」
ケイゴが我に返った瞬間、ミラはケイゴの下から脱出し鍵を開けて外へ出る。
「トラ、何でも無い。静かにして。」
「でもお嬢!」
「静かにして。」
ミラは振り向かずに部屋を後にする。
俺は激しい後悔と罪悪感と喪失感とに襲われた。この時初めて恋心を自覚したが既に遅い。もうお嬢に合わせる顔が無かった。
しかし翌日、ミラはいつもと全く変わらない様子で、まるで何も無かったと錯覚してしまうくらい普段通りに俺に挨拶をして来た。
「ケイゴ、おはよう!今日も宜しくね!」
「…おはようございます。あの、昨日は…。」
「何も無かった事にする。だから貴方も忘れなさい。」
有無を言わさない冷たい顔。
(こんな顔もできるんだ…。)
謝らせてもくれない酷い女だと初めて知った日だった。それから俺は女遊びを一切辞め、KAHOの為に真面目に尽くす様になった。




