パーティー当日
今日は朝からパーティーの準備で大忙し(使用人の方々や紫苑さんがね)。パーティーはおお昼から夜だから、それまでは寧ろ放っておかれている私。ケイゴも忙しい様で朝から捕まらない。いいけど…。昨日はいい雰囲気だったんだけどなぁー。
コンコン
ドアがノックされる。
(だれだろう?)
「どうぞ。」
「失礼します。ミラ様、旦那様と奥様がご挨拶をと申しております。」
「えっ?旦那様と奥様?紫苑さんのご両親ですか?」
「さようでございます。ご案内致します。」
ミラは見たことのない執事について行く。サロンに着くとジェスと話していたご両親がこちらに気づき、外交官であるお父様が話しかけて来る。
「ミラさん、初めまして。紫苑の父親のハンス・ルイです。」
「華峯ミラです。以後お見知り置きくだされば幸いでございます。」
ミラは握手を求るが、その手を掬い上げ手の甲にキスをされる。
(さすが本場の紳士!キレイな顔で自然にキス!!)
ミラはドギマギしつつ顔を紅く染める。
「妻のエリーゼです。よろしくお願い致します。」
エリーゼ様のカーテシーにミラも返す。
「手の甲へのキスで真っ赤になるなんて、可愛らしいお嬢さんね。」
「あ、あの、実は婚約の事で謝らなければーーー」
「事情は知ってるわ。ケイゴのためだと聞きました。お気になさらないでね。」
「ですがーーー」
「あの子はまだ結婚をするつもりは無いみたいでね、本当に好きな方が出来るまで待って欲しいと言われているの。でも周りが放っておかないから、表向きは婚約者が欲しいみたいなの。寧ろミラさんに失礼かとも思っていたのよ。」
「いえ、私こそご迷惑をお掛けしているのではと。」
「貴方がKAHO家のご令嬢なんだね。ケイゴの大切なお嬢様。」
そう言われてじっと見られて恥ずかしくなり視線を外す。
「えっとー…。」
「あなた、そんなにジッと見つめたら失礼でしょ?」
「あ、そうだね。ごめんね。ミラさんを呼んだのは、ここで何日か泊まっていたみたいだけど、どうだったかと思ってね。」
「ご当主様の不在時に停留させていただき、申し訳ありません。とても良くしていただきました。ダンスやマナー以外にも色々な授業を受けさせていただき、ありがとうございます。」
「あの家は紫苑の家だから、宿泊についてとやかく言うつもりはありません。ミラさんが快適にお過ごしなら良いなと。」
「とても良くしていただきました。ありがとうございます。」
「ご歓談中に失礼致します。ミラお嬢様、お召し替えの準備が整いました。こちらへお越しください。」
「はい、分かりました。旦那様、奥様、では失礼致します。後ほどまた宜しくお願い致します。」
ミラは丁寧に挨拶をし退室する。
「KAHOのお嬢様というから、どんなに傲慢な方かと思ったら、とても素朴なお嬢さんね。」
「ケイゴは彼女のどこがいいのかな?もっと美人がゴロゴロいた留学中も遊ばなかったし。」
「…二人にしわからない何かがあるのよ。」
「そうだな。」
******
ミラは部屋でドレスに着替え髪をアップにしてもらい、お化粧もしてもらう。
(このドレスステキ。凄く好きな感じだわ。それにこのジュエリーもステキ。ケイゴ褒めてくれるかなぁ。パーティー前には会えるかなぁ?)
そんな事を思っていたが、ケイゴに会えずに時間になってしまう。
「ミラお嬢様、お時間でございます。」
ミラは呼びに来てくれた執事にエスコートされながら会場前に行く。
「お待たせいたしました。」
そこに居た紫苑やその両親は振り向いたかと思うと、凄くびっくりした顔をする。
「?何かありましたか?」
(何だ!?全く普段と違うじゃないか!)
(とても所作が美しい…。普段は田舎娘丸出しなのに。)
(目や表情の使い方が上手だわ…この子のこの空気感を出すのは難しいわね。ステキな淑女と言わざるおえないわね。)
暫くの沈黙の後、取り繕うように紫苑が声をかける。
「凄く美しいね。ドレスが良くにあっています。ケイゴに一番に見せられないのが残念だな。」
「ケイゴは会場ですか?」
「そうだよ。彼はゲストだからね。さぁ、時間だ。行こうか。」
紫苑は左腕を出してくれる。ミラはその腕に手を絡ませる。まるで花嫁の練習みたいな感じだ。
目の前の扉が開き、ご両親が先に入場する。それに続き紫苑とミラが入る。
しかし、ミラが入った瞬間、会場は冷気が立ち込めた様に静まり返り、鋭い氷柱の様な視線がミラに向かって飛んでくるのを感じた。
(やっぱり私では力不足だったな…紫苑さんに申し訳ないな。)
それでもミラは顔を上げ、穏やかな微笑みを崩さず歩み続ける。ふと、視界の端にケイゴが映る。彼は知らない女性と話しており、ミラを見向きもしていなかった。その様子に少し傷つきつつ、ミラは主催者席で挨拶をして来る人達に挨拶を返す。そこで、紫苑に声をかけて来るご令嬢。
「本日はお招き下さりありがとうございます。ところでそちらの方は?」
「こちらは華峯ミラさんです。僕のパートナーです。」
その瞬間、さらに会場から鋭い視線が飛んできた。




