修一編7
「ねぇあんた、さっき周防様にエスコートされてた女よね。」
「…?周防様?」
「そうよ!どういう関係なわけ?」
(さっきの師匠って呼ばれてた人?)
「あの方とは初対面です。」
「嘘をつくな!初対面であんな丁寧なエスコートをするとでも?」
「…そう言われましても…。」
「ちょっと来なさいよ!」
言うのが早いか、ミラは女性用トイレへ連れて行かれる。
「!?」
トイレには他の人達もいる。異様な空気だ。嫌な予感が過ぎるミラ。
「何このブサイク。周防様に色目使って。あんたなんか相手にされる訳ないでしょ。」
「きゃっ!」
後ろから強く押されて床に転んでしまう。
「ふん、いいきみ。これ以上調子に乗るんじゃ無いわよ!」
女達が戻っていく。ミラはゆっくり立ち上がり元いた席に戻る。会場では修一が探してくれていた。
「ミラちゃん、急にいなくなるから心配したよ!」
「あっ。ごめんなさい。お手洗いに…。」
「そうか、良かった。ねぇ、食べる前に暗示をかけさせて。」
「お願いします。」
修一はミラのおでこに手を当てて暗示をかける。
「ありがとうございます!」
******
パーティーも終盤、偽修一と師匠が一緒にミラのところへやって来た。ミラは俯いている。
「さぁ、君の作った最高傑作を見せてくれ。」
「さぁミラ、ご挨拶しなさい。」
「…。」
ミラは俯いたまま黙っている。
「ミラ、どうした?」
「あぁ、いいんだ。緊張しているんだろ?私が直々に暗示をさらに深めてあげよう。従順になる様に。」
師匠はミラの額に手をかざそうとする。その時だ。
「ケイゴ!!」
ミラが急に大きな声を出す。その声に反応して師匠のすぐ後ろに居たケイゴが、師匠に蹴りを喰らわせる。それと同時に本物の修一は、ミラの手を引っ張り倒れかかってくる師匠をサッと避けさせる。
「な、何をする!」
床に這いつくばった師匠を、偽修一が抱き起そうとする。ケイゴはサッと移動しミラを背後に庇う。
「周防お前だな、修一の名を語りミラを拉致監禁してくれたのは。」
ケイゴの地を這う低音が響く。周防と師匠はたじろぐ。
「ミラを人形にして、何が目的だ!」
ケイゴは修一に目配せする。修一はアイコンタクトに頷くと、「走れ!」とミラに耳打ちし、ミラを引っ張り走り出す。ミラも弾かれた様に走る。両足からヒールが飛んだ。
そんな事を気にする暇もなく、兎に角誘導されるままに走る。右に左に引っ張られながら長い廊下や階段を出口に向かって走る。
不意にケイゴが心配になり振り向くミラ。
「修一さん、ケイゴは?」
「大丈夫だ。ケイゴさんはとても強いと聞いてるから。」
「でも!」
「それよりもうすぐ出口だ!」
会場から出ると表に黒塗りの車が止まっていて、ミラと修一を見つけてドアを開けてくれる。2人が飛び乗ったかと思うと、車を発進させる。
「お嬢、ご無事で!」
「林さん!ケイゴがまだ!」
「ケイゴ君なら大丈夫です。もう一台用意してます。それに乗って帰って来るはずです。KAHO家へ向かいます。」
「…お願いします。」
まだ心臓が、バクバクしている。屋敷に着くまで、それ以上の会話は無かった。




