おっさんの隣人②
鉛のような体を引きずって帰宅した。
「めちゃくちゃダルい。とにかく、今は寝たい」
リビングに向かうまでに、何度も扉やソファーにぶつかり続ける。
服を脱ぎ捨てて、めんどくさいので朝着ていたパジャマを着た。
とりあえず、玄関の鍵を確認してから寝室に向かう。
バフッ……。
俺は倒れるように、おっさんのベッドに横になる。
「寝なきゃ死ぬ。おやすみ」
すぐにでも、目が落ちそうになった瞬間だった。
「やだわーー。それって、一体なんなの?」
「だからね、息子がこないだ話しててね」
「いやだわーー。奥さんも」
所々は、聞こえないけれど……。
話している声が大きくなる度に、隣で話されてるぐらいにデカく感じる。
昼間だから、おばさん連中が井戸端会議をするのは仕方ない。
仕方ない事だとわかっていても、イライラする。
普段なら、こんな事で怒らないけれど……。
今日は、睡眠が不足しているせいでイライラを抑えられない。
一体、誰だよ。
井戸端会議してるのは……。
イライラしながらも耳を澄ませる。
「やだわーー。宇田さんの方が若いじゃない」
「そんな事ないわよ。菊川さんだってまだまだ若いわよ」
宇田……。
おっさんの隣人が、誰かと会話しているようだった。
どんな奴か顔を見てみたい!!
でも、寝室はおっさんが窓を封鎖している。
パジャマで飛び出すか?
いや、それはあまりにもおかしい。
仕方ない。
今日は、話を盗み聞きするしかない。
ガタンゴトン……。
ガタンゴトン……。
あーー。
おっさん家は、電車が近いのを忘れていた。
電車の音で、会話が書き消される。
「それじゃあ、またね」
話が終わってしまった。
めちゃくちゃ最悪だ。
ただ、さっきまでの眠気が飛んだだけだ。
頭がガンガンと痛い。
さっきより、体調が悪化しているのは確実だ。
「静かになったし。寝るか……」
俺は、気を取り直して寝る事にする。
今なら、秒で寝れそう。
ワンワンーー
ワンワンーー
「うるさいよ。静かにしなさい。ミカちゃん」
ワンワンーー
ワンワンーー
「うるさいって言ってるでしょ。やめなさい」
ワンワンーー
ワンワンーー
「テメーが一番うるせーーんだよ!!」
秒で寝れそうだったのに……。
犬に叱ってる声がダイレクトに頭に響いてきた。
犬の吠え声もうるさい。
「窓閉めろや!!ババア」
眠れないせいで、心臓がいつもより早い気がする。
動悸してる。
だんだんとさらに体調が悪くなるのを感じる。
息が出来ない気がしてきた。
ヤバいな。
今までに経験した事ないストレスが身体にかかってる感じがする。
まだ、一日目だよな?
あのおっさんこれをずっと耐えてたのか?
それって、地獄って事だよな。
ガチャ……。
キッチンの方からかすかに音がして、俺は寝室を飛び出した。
「あれ?帰ってたんですか?」
「おっさん……!!何で?」
「家内がね。君の家の冷蔵庫を開けた瞬間、君の健康が心配だからって言い出したんだよ。それで、俺みたいになったら駄目だから、せめて作り置き持って行ってあげてくれって言うもんでね。君がいない間に、こっそり置いて帰ろうと思ったんだけど。休みでしたか?」
おっさんの顔を見た瞬間、俺は泣いてしまう。
「えっ?どうしました?風邪ですか?薬とか買ってこようか?」
「そんなもんいらねーーよ」
「じゃあ、どうしました?」
「俺、おっさんの辛さがわかったよ!!!」
「隣人の事ですか?」
「ああ。ずっと寝れなくて。体はダルいし、動悸はするし。頭はガンガン痛いし。目がチカチカするし。だけど、おっさんの隣人が寝かしてくれないんだ」
「そうですか……。やはり、何も変わらないみたいですね」
俺は、おっさんを見ながら首を横に振る。
「何ですか?」
「変わらないわけじゃない。俺が、変えてやる!!」
「それって……」
「俺が、おっさんの隣人を黙らせてやるよ」
「頼もしいですね。宜しくお願いします」
ニコニコ笑うおっさんを見つめながら決意をしていた。
俺は、おっさんの隣人トラブルを解決すると……。