おっさんの隣人
「……♪……♪」
ボーーン、ボン、ボン……。
何だ、この音。
ってか、今いったい何時だ?
俺は、手探りでスマホを探す。
「はあ?何だよ」
画面を見つめた俺は、固まった。
まだ、真夜中の3時15分。
「はぁ?真夜中だぞ。何だ、この音」
一旦音が気になってしまったせいで、目がどんどん冴える。
「……♪……♪」
何か人が念仏を唱えているのかと思ったら……。
どうやら、違うようだ。
何かわからないが、何かの音楽がかかってる。
「頭おかしいのか?」
昼の3時と夜中の3時を間違えてんのか?
俺は、どうにか音を聞き取ろうと壁に耳を当ててみる。
ボン、ボン、ボン……。
よくわからないけど、何かがボンボンと言っている。
どうにかして聞く方法がないだろうか?
俺は、音がどこから聞こえてくるのかを知りたい。
いや……。
この壁の向こう側って事は、おっさんが言ってた隣人なのか?
「あんた、何時に帰ってくるんだった?」
「今日は、夕方には帰るよ」
「じゃあ、シチュー作っとくわね」
【ワン、ワンワン】
会話がハッキリと聞こえ、犬の吠え声もしている。
「いや、家族全員。頭のネジが抜けてんだろ?」
俺が会話を聞き取れてるぐらいって事は、外で普通のボリュームで話してるって事だよな……。
いや、普通におかしすぎるだろ。
15分が経ち。
辺りは、また静けさに包まれた。
だけど、俺は寝れない。
こんな時間に起こされたら寝れるわけがない。
・
・
・
・
・
ピピピピ……。ピピピピ……。
朝6時にかけていた目覚ましが鳴る。
「体。重たいな」
ゆっくりと起き上がって、俺はアラームを止める。
普通にしんどいけど、仕事だ。
俺は、おっさんの家の冷蔵庫を確認する。
「ハムと卵もらお」
フライパンに油をひき、ハムエッグを作る。
その間に食パンをトースターで、温めた。
いつもは、しっかり6時間から7時間寝れているが……。
昨日は、眠れなかったせいで正直体が鉛のように重くてたまらない。
俺は、睡眠が不足する事が苦手だった。
朝御飯を用意出来て、食べ始める。
正直、お腹がすいた感覚がない。
今すぐにでも、横になりたいぐらいだ。
「仕事に行かなきゃ……」
俺は、リビングにある時計を見つめて言った。
のそのそと立ち上がって、服を着替える。
体が自分のものじゃないぐらいにいうことがきかない。
着替えて、玄関を出た。
ちょうど、向かいの奥さんが出ている。
「おはようございます」
「おはようございます」
訝しげに俺を見ていたけれど気にしないようにした。
おっさんの隣は、出ていないようだった。
そりゃそうか。
真夜中に話をしてるぐらいだから、こんな時間に起きてるわけないか。
いや、そもそも近所がみんな同じ時間帯に動くなんて事もないよな。
やべっ!!
俺は、急いで出勤する。
いつもなら、シャキッとしてる目も今日はほとんど開いてなかった。
仕事場に出勤すると俺はいつものように工場の制服に着替える。
俺が就職したのは、お酒の工場だ。
就職理由は、簡単で……。
俺が、就職先を探している時にハニーレモンちゃんのお酒が販売されたからだ。
たったそれだけで俺は、ここで働く事に決めた。
「こらこら、吉村。さっきから、ラベルついてない酒が流れてきてるぞ」
「す、すみません」
「体調悪いなら、早退しろよ」
「だ、大丈夫です」
俺の作業は、最後の瓶詰め作業だ。
ラベルが貼られていない一升瓶をのけたりするんだけど……。
今日は、頭がうまく回らずに何も出来ない。
10時になり、音楽が流れた。
15分の休憩をとる。
俺は、ブラックコーヒーを自販機で購入して胃袋に流し込む。
こんな体で、17時まで持つかな?
年末、クリスマス、バレンタインなどの繁忙期ではなくて少し助かっていた。
その時期だと残業もあるから……。
体は、持ちそうにない。
15分の休憩が終わり、また作業に入る。
「おい!吉村。また、流れてきてるぞ」
「すみません」
「吉村君にしては、珍しいミスだね。風邪でもひいたかな?」
「こ、工場長!!」
「吉村君、今日はもう上がりなさい」
工場長は、俺の姿を見て一発でそう言った。
【しっかり睡眠をとらないとここの仕事は出来ないからね。大丈夫?】
面接で工場長は、俺にそう話した。
「すみませんが、お先に失礼します」
「吉村。しっかり体休めろよ」
「気をつけて帰るんだよ」
「はい。ありがとうございます。今日は、すみませんでした」
俺は、深々と頭を下げてからロッカーに行く。
このままだとまじで仕事にならない。
でも、たった1日だ。
まだ、我慢しなきゃ……。