お帰りなさい……
「お帰りなさい……」
「は?」
何故かすぐに身体に力が入り、目を開けるとさっきの家族がいた。
「な、何で?お前ら、死神か?」
「違います」
「じゃ、じゃあ、何でここにお前らがいるんだよ。俺は、死んだんだぞ」
「死んだ……?確かにそうですね。ですが、その服を見て下さい」
おっさんに言われて服を見ると、何の出血もしていない。
「あれ、あれ、何で?どうなってる?」
「どうやら、成功したようなので、説明しましょうね」
おっさんは、俺の体がどうなっているかを説明してくれる。
その説明によると、おっさんがあがりに入れて飲もうと思っていた液体をどうやら俺が間違って飲んでしまったようだ。
おっさんは、昔、研究員として働いていた知識からある研究をしていたらしい。
その研究の末に誕生したものを俺が飲んでこうなったのだ。
おっさんいわく、タイムリープする事が出来る薬だという。
で、俺はさっきおっさんの奥さんに刺されたんだけどタイムリープして戻ってきたのだ。
それって、転生ってやつか?
よく、アニメや漫画で見てたやつだ。
「待ってくれ。じゃあ、俺は今、不死身って事か?」
「まあ、そうなりますね」
「ちょっと待て!そもそも、何でこんな薬を開発したんだよ」
「それは、隣人を殺す為です」
隣人を……殺す為???
「殺したら殺人犯じゃねーーかよ」
「残念ながら、それはないんです」
「どういう事だ?」
「仮に、君が今私を殺そうとします。すると、私は死にます。そして、君は自殺以外の方法で戻ってくるしかないので。まあ、仮に私の妻に殺されてこちらにきます。すると、私は死んだままなんです」
「って、どういう事だ?」
「つまり、君は生き返るが私は死んだまま。私は、そもそもこの世界に存在しなかったって事になりますね」
「いや、駄目だろ。そいつにだって家族がいるわけだし。世界に存在しないとかってのは復讐としても何か違うって言うか……」
「だったら、その目で隣人に会いに行ってから決めてくれていい。私が間違ってると言うなら、君のその目で判断してもらって構わない。だけど、私達家族は限界だったんだ」
おっさんは、膝から地面に崩れ落ちて泣いた。
「パパはね。優秀な研究員だったの。未来の子供達の為に、薬の開発をしたりしてね。だけどね、10年前に引っ越してきた隣人のせいでうつ病になったのよ」
茶髪の髪の毛をしながら、ギャル要素しかない女の子なのに……。話し方は、凄く真面目だ。
「どうして?そんな病気になったんだ?」
「車による音、音楽の音、家の前の道路で話す声、それらすべての音がパパを追い詰めた。パパはね、ちゃんと隣人に話をしたのよ。すみませんが、もう少しどうにかして欲しい。静かにして欲しいって……。だけど、その願いは守られなかった。だから、パパは薬を作ったの。ううん。私とママが作らせたんだよ!だって、パパは日に日に笑わなくなって……。真っ白な天井を見つめながら毎日、殺すって呟いてた。それが、研究を始めて暫くしてから元のパパらしくなってきたんだよ。その薬がようやく昨日完成して。やっと、隣人を消せるって思ったのに……。あなたが協力してくれないなら、私達の10年間は無駄だったじゃない」
「待て待て。引っ越せば済む話だろ?そしたら、そんな隣人なんかいなくなるじゃないか……」
「それは出来ないのよ。だって、あの土地はパパのお義父さんから譲り受けた大切な土地なのよ」
「それでも、事情を話してお義父さんに引っ越すって言えば済む話だろ?」
「死んだ人に何の事情を話せばいいのかしら?」
奥さんの言葉に俺は固まっていた。長い間、この人達が悩んで悩んで産み出したものを……。
俺が、壊したのだ。
「新しい薬を作って、またタイムリープ出来るようにすればいいんじゃないのか?」
「それは無理なんだよ」
「無理……?」
「ああ。タイムリープを可能にしたのは、異世界人の連れている魔獣である金色の鳥のお陰なんだ。見た目は、凄く梟に似ていてね。その鳥の羽根と血をもらわなければならないんだ。異世界人がこちらにくるのは、500年に一度だけ」
「ご、500年に一度?!」
「ああ。向こうの世界の扉とこちらの扉がピッタリ重なる深夜2時にやってくる。そこで、勇者が連れてる金色の鳥の羽根と血をもらわなければならない。先週、九州にある離島に扉が重なるのを知り、私は急いで向かったんだ。扉が開き現れた勇者に私はお願いした。彼は、とてもいい人でね。羽根と血を譲ってくれたんだ。次の代は、どんな勇者かわからないから……。お願いは、今回だけにして欲しいと頼まれたんだ」
おっさんの言葉に頭が追い付かない。
マジで、異世界ってやつがあるのか……。
だけど、嘘を言っているようには思えなかった。
この話が真実じゃなきゃ説明がつかない事が俺の体に起こっているからだ。
「わかった、わかったよ。だけど、おっさんの隣人に会って俺が殺さなくていいって判断したら、殺さない。それでいいんだな?」
「それで、構わない」
「だったら、いいよ。やってやるよ」
「所で、名前を聞いてなかったね。私は、月村龍矢。妻の蓮奈に娘の愛桜だ」
「ヨローー」
「よろしくね」
「俺は、吉村陸です。よろしくお願いします」
俺は、おっさん家族に軽く会釈をする。
「吉村君かーー。じゃあ、きっちゃんだね。それか、きったんとか?」
「りっくんとかのがよくねぇ?」
「吉村さんってちゃんとお呼びしなきゃ駄目でしょ」
「いやいや。あだ名なんかどうでもいいわーー。だから、俺はおっさんの事、おっさんって呼ぶからな」
「構いませんよ。おじさんですから」
「パパがおっさんって呼ばれてるの初めて見たーー。ウケる」
「もう、愛桜ちゃん。やめなさい。ママもおかしくなってきちゃうじゃない」
「ごめん、ごめん」
さっきとは違い。
娘は、ギャルらしくなった。
ってか、そんな事どうでもいい。
「も、もういいよ。で、どうすればいいんだ?」
「暫く、家を交換しましょう。吉村君は、私の家に帰り。私達、家族は君の家に帰ります。こちらが、鍵です」
「これ、うちの。って、いっても、1DKだぞ?狭いんじゃねーーの。おっさん以外は、一緒に帰っても……」
俺の言葉に、娘と奥さんの顔色は青ざめ。
首を横に振りながら、ガタガタと唇を震わせている。
そんなに嫌なのか……?
「わかった。1人で帰るよ。だけど、狭いとか文句言うなよ!!」
「わかりました。荷物を取りに行くので家を案内します」
「その前に、俺のが家近いと思うから先に行っていいか?」
「大丈夫ですよ」
俺は、おっさんの手にあるハニーレモンちゃんをチラリと見つめてから歩き出す。
おっさん家族は、俺についてくる。
これから、どうなるかわからない。
だけど、俺はハニーレモンちゃんを取り戻す為に頑張るしかない。