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道楽草  作者: 十三岡繁
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お金

 お金というのは実に面白いシステムだ。世界のどこへ行っても宗教があるように、大概のところにはお金も存在している。 大昔はきっと物々交換が主だったのだろう。しかしそれでは大きなものとか形のないものの売買というか、交換をするには不便なケースもあったろう。そこで自分の売りとなるものを、一旦お金というものに価値を変換して、その上でまたお金を使って買いたい物なり労働力を手に入れる。お金を小さくて腐らないものにしておけば、運搬もできて保存も効く。素晴らしい汎用性だ。きんなどはお金の素材として重宝されただろう。ああ、だからお金という漢字は金なのかと思う。


 このシステムは非常に便利なので、もし異星人がいたとして、その星の文明でも同様なことが行われているのだろうか? 既にその次元は卒業しているかも知れないが、その星の歴史を振り返るとそういう時代を経て来たに違いない。 


 であれば異星人は何を貨幣として使ったのだろうか? 希少ではあるが、それなりに存在していて腐食に強い物質……やはり地球と同じく金は有力候補のような気がする。ダイヤモンドは貴重だけども、所詮は炭素の塊なので火災時には心もとない。何を使うのかはその星に存在する元素の具合で決まるのだろうか?


 他にも物質に変わる、別の絶対的な価値を持つ交換可能なものが存在しているという事も考えられる。

 例えば愛だ。愛はかさばらないし腐らない。自分の売りたいものを一旦愛に変換して、愛を使って欲しいものを手に入れる。これはお金と全く同じシステムのように見えて大きく違うような気もする。愛は物理的な実体を持たない。そうして腐りはしないが時間とともに劣化していくような気がする。


 そこまで考えて電子マネーも物理的な実体を持たないことに気がついた。で、あれば既に地球ではお金は愛と同様な存在に変化したのか? いや、電子マネーは情報だ。愛は情報とは違う。愛はどちらかというと感情とか心とか魂に近い部分にあるような気がする。情報には価値がある。価値をもつという事は貨幣と同様の役割を担えるという事だ。


 いや、愛にも価値はある……ならばやはり貨幣の役目も果たせるのか? ……何かどうでもいいとてもくだらない事を考えているように思えてきた。


 それほどお金は便利だがとても不思議な存在だという事だろう。それ自体が価値がある場合もあるが、情報や信用という物で成り立つことも可能なのだ。そう考えて愛というものもとても不思議な存在で、もしかしたらお金と似ているのかもしれないなと思ってしまった。これはとりあげた例が悪かったかもしれない。


 しかし量子力学では観察者の存在が物理現象を左右してしまう。それはシミュレーション仮説の正当性を端的に表しているような気がするが、愛という実体のよくわからない存在は世界に強い影響力を持っていたりしないんだろうか? それはお金のシステムを遥かに超えている。量子力学には懐疑的で無神論者であるはずのアインシュタインは娘に向けた手紙にこう書いている。「愛は神であり、神は愛だ」……最後お金は愛の話になってしまった。愛はお金では買えない。


 因みにあの世にはお金は持っていけないが、愛は持っていけそうな気がする。

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