はじまり
福岡県と佐賀県の県境には脊振山地というものがある。この稜線は登山道の尾根道なっている。途中いくつものピークがあってそれぞれの山も人気であれば、尾根道沿いの縦走も気持ちがいい。
そうして歩いていると、この道はいったいつからここにあるのだろうと思わずにはいられない。通常道と言えば通り易かったり、目的地同士を結ぶのに都合がいいように作られる。特に平地であればそうだろう。川沿いの道は地形に沿っているが、川の形は時代と共に変わっていく。その点山の稜線は激しい火山活動でもない限りは、今も昔もそのままだ。
つまりは今自分が歩いている尾根道は、多分一万年前も二万年前もおよそ人間が北部九州に現れてから、ずっと変わらない存在としてここにあるのだ。ここからはピーク近くの開けた場所に出ない限りは街は見えない。ただただ木々が生い茂り、足元には熊笹を始め、雑草が道の左右を囲み込む。
季節ごとに違う花が咲く。人間が植えたものではない。野生に育った植物が、例えばゴールデンウィーク辺りであればミツバツツジが咲き乱れる。それは尾根道に花のトンネルを作り出す。
この同じ風景を一万年以上前の縄文の人々も見ていたのだろうかと思いを馳せる。多分緑の隙間から見える青い空も、流れる雲も昔と同じだ。そうして尾根道ならではの吹き抜けていく風も。鳥のさえずりも当時と変わりないのだろう。
九州北部には色々な始まりの地がある




